近年、メディアの情報操作が問題視されています。
その背景には、人間の思考に偏りを生む『認知バイアス』が悪用されているという事実があります。
この記事では、「私たちがどうやってダマされていくのか」という視点に絞って、そこで認知バイアスがどのように利用されているのかを具体的に解説します。
この記事を読めば、これまで見ていた「ニュース、情報番組、SNSの投稿」なども、きっと違った見え方になるはずです。
ダマされないための『情報リテラシー』を身につけ、自分で考えて判断する力を養いましょう。
はじめに
今、メディアによる情報操作が話題となっていますが、具体的な手口については、ほとんどの方がご存知ではないと思います。
この記事では、人の思考の偏りを生む認知バイアスを利用した、様々なメディアの手法を詳しくご説明し、認知バイアスとはどういうことなのかの理解を深めていただくとともに、「簡単にメディアに騙されない自分」を実現するための参考にしていただきたいと思います。
これは、今やオールドメディアと揶揄されるテレビに限った話ではなく、SNSなどでも同じことです。
こうした情報リテラシーは、どんな情報に対しても、そしてどんな職業の人においても必要な素養なのです。私は、こうしたことは学校で教えるべきことではないかと考えています。
メディアの情報操作の手口
早速ですが、メディアで使われる、認知バイアスを利用した代表的な情報操作の手法には、以下のようなものがあります。
- アジェンダ設定 :特定の話題を繰り返し取り上げることで、人々の関心を特定の方向に誘導すること
- フレーミング :同じ情報でも、提示の仕方(言葉遣い、強調点など)によって受け手の印象を操作すること
- プライミング :先に与えられた情報が、後の情報解釈や判断に無意識的な影響を与えること
- 権威への訴求 :専門家や権威者の意見を引用することで、主張の正当性を強調し、無批判な受け入れを促すこと
- 感情への訴求 :喜び、怒り、恐怖などの感情に訴えかけることで、人々の判断や行動を操作すること
- 情報の選別と隠蔽:特定の情報を選んで強調し、都合の悪い情報を隠すことで、人々の認識を操作すること
- 反復 :同じ情報や主張を繰り返し提示することで、人々の記憶に定着させ、信じ込ませようとすること
それぞれについて、詳しく説明していきます。
メディアの手法の裏側を考えながら、認知バイアスがどのように機能しているのかの理解を深めていただくことがこの記事の目的です。そこには複雑に相互機能することで、簡単に見抜けない構造があります。
それぞれ、一見、普通のことのように感じることもあるかもしれませんが、これらには情報操作する意図を含むことがあることを意識してみていきましょう。
アジェンダ設定 (Agenda-Setting)
アジェンダ設定とは、メディアが特定のテーマを繰り返し報道することで、人々の関心を特定の方向に誘導する現象です。メディアが報道する内容や頻度によって、人々が「重要だ」と感じる問題が変わるという原理です。
アジェンダ設定は、人々の情報環境に影響を与え、世論形成に影響を及ぼす可能性があります。
例えば、ある時期に犯罪に関する報道が集中すると、人々は犯罪が多発していると感じ、治安への不安を高める可能性があります。しかし、実際に犯罪が増加しているとは限りません。
メディアの報道には、時として、人々の認識と現実の間にギャップを生み出す力があるのです。
メディアにおける「アジェンダ設定」の悪用事例
の悪用事例
- 典型的なメディアの手口としては、特定の政治家のスキャンダルや、特定の政策のデメリット、特定個人の不祥事などを繰り返し集中的に報道することで、人々の関心を特定の方向に誘導します
- 逆に、報道しないことで、特定の政治家の功績や、特定の政策のメリットなどを人々の目に触れさせないようにします
・これは、大きな政治的問題を隠すために、他の話題で人々の関心を逸らす場合に見られます
・例えば、重要な法案の審議中に、芸能人の話題などが大きく報道されることで、法案への注目が薄れる、といったことが起こり得ます - 同じニュースでも、取り上げる頻度や時間、表現方法などを操作することで、人々の関心や受け取り方に影響を与えます
ダマされないために
視聴者は常に、こうした状況を観察し、「なぜこの情報が繰り返し報道されるのか」「他に重要な情報が隠されていないか」という視点で情報を受け取る必要があります。
その上で、以下の点を意識することでその影響を軽減することができます。
- 特定のメディアだけではなく、国内外の様々な情報源に触れることで、アジェンダ設定の影響を受けにくくなります
例えば、海外のニュースサイトや、専門家のブログ、政府の発表資料などをチェックする習慣をつけましょう - 報道されている情報だけでなく、報道されていない情報にも意識を向けることで、情報全体のバランスを把握することができます
例えば、ある事件が大きく報道されている裏で、重要な法案がひっそりと可決されている、といったことがないか注意しましょう - メディアが設定したアジェンダに流されるのではなく、自分にとって本当に重要な情報は何なのかを考え、情報の優先順位を自分で決めるようにしましょう
フレーミング (Framing)
フレーミングは、同じ情報でも、提示の仕方(フレーム)によって、受け手の認識や解釈を特定の方向に誘導する手法です。
言い換えると、人の思考パターンの一つであるフレーム思考を利用して、ある現象を特定の印象を誘発するフレームで捉え直して表現することです。
これは、言葉の選び方、比喩の使い方、強調する点、省略する情報など、情報の提示方法全体が、受け手の認識に影響を与えます。
損失を回避しようとする人間の心理(損失回避バイアス)を利用したフレーミングの例では、「手術後の生存率90%」と「手術後の死亡率10%」という表現では、印象が全く異なりますね。
機会損失を恐れる心理を利用したフレーミングでは、「期間限定セール!今だけ半額!」という広告は、緊急性を強調することができます。
また、同じ出来事でも、表現を変えることで印象が大きく変わる例として、『地球温暖化』を『気候変動』と言い換えることで、危機感を弱める効果があります。
フレーム:情報や経験を解釈し、意味づけるための認知的な枠組みのことです
メディアにおけるフレーミングの悪用事例
- 言葉や比喩により人々の感情や認識を操作する
・ 例えば、「テロとの戦い」という表現は、「テロ」という言葉が持つ恐怖感や危機感を煽り、関連する政策への支持を集めやすくします
・これは、特定の出来事を「戦争」という概念で捉えることで、人々の感情に訴えかけ、政策への批判を抑制する効果があります - 同じ出来事でも、肯定的な側面、否定的な側面のどちらを強調するのかで、人々の評価を操作する
・ 例えば、ある政策について、「改革」という言葉は前向きなイメージを与え、「改悪」という言葉は否定的なイメージを与えます
・同じ犯罪でも、犯人の生い立ちや苦境を強調するなど、着目する視点を変えることで、受け手の印象を大きく変えて、同情的な感情を誘発することができます
ダマされないために
視聴者は、情報を受け取る際に、使用されている言葉や表現方法に注意し、そこにどのような意図が隠されているのかを意識することが重要です。
- 使用されている言葉の定義を改めて確認することで、フレーミングによる印象操作を防ぐことができます
例えば、「改革」という言葉が具体的に何を意味するのか、辞書や専門家の解説などを参照するようなことも有効です - 同じ情報を異なる表現で言い換えてみることで、フレーミング効果を意識することができます
例えば、「テロとの戦い」を「テロ対策」と言い換えることで、感情的な意味合いを薄めることができます - 情報がどのような背景や文脈で発信されているのかを考慮することで、フレーミングの意図を見抜くことができます
例えば、ある政治家が特定の政策を批判している場合、その政治家の立場や過去の発言などを考慮することで、批判の意図をより深く理解することができます
プライミング (Priming)
プライミングとは、先に与えられた情報(プライム)が、後の情報解釈や判断に無意識的な影響を与える心理現象です。簡単に言うと、「最初に見たものや聞いたことが、後で見るものや聞くことの解釈に影響する」ということです。これは、人間の脳が情報を関連付けて記憶し、処理する仕組みに基づいています。
一見、影響が小さいように思われがちですが、プライミングは潜在意識に作用するため、気づかないうちに大きな影響を受けてしまう可能性があります。特に、意図的に悪用された場合、その影響は深刻です。
プライミングは、脳内の情報処理過程において、先行する情報が後の情報処理の「準備」をするように作用します。これは、短時間で処理されるプロセスであり、持続的な記憶とは異なります。
そのため、無意識に影響を受けていることが多く、特に厄介なのは、こうしたプロセスで生まれた結論を自らの思考の成果物として自覚してしまう点です。
実際には、初期の情報処理の段階で判断が歪められている可能性があることに気づく必要があります。
具体的には、広告のキャッチコピーや政治のスローガンなどで、特定のキーワードやイメージが繰り返し使用されることで、人々の意識に特定の概念や感情を植え付けようとします。
例えば、最初に「医者」という単語を提示された後では、「看護師」という単語をより早く認識することが実験で示されています。これは、「医者」という単語が「看護師」という関連概念をプライミングするためです。
感情でも同様で、悲しい音楽を聴いた後では、他人の表情をより悲しげに解釈する傾向があることが実験で示されています。
また、前置詞や修飾語といった些細な言葉遣いも、意味合いを微妙に変化させる効果があります。例えば、「〜だが」という接続詞は、前に述べた内容を否定するニュアンスを与え、「〜にもかかわらず」という接続詞は、後に続く内容を強調するニュアンスを与えます。
このように、言葉の選び方一つで、受け手の印象を大きく操作することができるのです。これにより、潜在意識レベルでの誘導が行われ、その結果、誤った価値観や特定の対象への嫌悪感などが醸成されるリスクがあります。
更に危険な要素としては、悲しみ、怒り、恐怖といった強い感情を喚起する情報は、こうしたプライミング効果を増幅させる傾向があります。
様々な場面で行われる、「切り抜き」という行為は、文脈を無視して情報の一部だけを提示することで、特定の印象を操作し、プライミング効果を高める目的で利用されます。
プライミングは、短期的・無意識的な影響であるため、他の認知バイアスに比べて影響が小さいと感じられるかもしれませんが、情報操作においては非常に強力な武器となります。特に、潜在意識的な誘導、理解や価値観の歪み、前置詞や修飾語の影響、頻繁に繰り返される言葉の影響には注意が必要です。
メディアにおけるプライミングの悪用事例
メディアでは、プライミング効果を利用して、視聴者や読者の認識や判断を特定の方向に誘導しようとする手法が用いられます。以下に具体的な例を挙げます。
- ニュース報道におけるプライミング
・特定の事件や事故を連日報道することで、社会全体の治安が悪化しているという印象を与えます
・ある政治家について、ネガティブなキーワードと関連付けて報道を繰り返すことで、その政治家に対する否定的な印象を植え付けます
・特定の政策について、メリットだけを強調する報道を繰り返すことで、その政策への支持を集めようとします - 広告におけるプライミング
商品のCMで、幸せな家族のイメージや美しい風景を繰り返し流すことで、その商品にポジティブな感情を関連付けます
特定の商品と成功やステータスといったイメージを結びつけることで、消費者の購買意欲を高めようとします - ソーシャルメディアにおけるプライミング
特定の情報や意見を繰り返し投稿することで、フォロワーの認識や判断を特定の方向に誘導しようとします
感情的な言葉や画像を使って、特定の意見への支持や反感を煽ります
ダマされないために
プライミングは巧みな言語操作により、無意識的に視聴者の思考に作用するため、完全に避けることは難しいです。
情報を見聞きする時の注意点としては、以下の点を意識することでその影響を軽減することができます。
- 偏った報道を行うメディアや情報源からの情報ばかりに触れないように注意し、複数の情報源を参照し、情報の偏りがないかを確認することが重要です
- メディアで伝えられる情報を無批判に受け入れるのではなく、常に疑問を持つように心がけ、「なぜこの情報が強調されているのか」「他に伝えられていない情報はないか」といった視点を持つことが大切です
- 悲しみ、怒り、恐怖といった強い感情を喚起する情報には特に注意が必要で、感情的な反応に流されることなく、冷静に情報を分析するように心がけましょう
- 情報に触れた直後に判断するのではなく、時間をおいてから改めて情報を吟味することで、プライミングの影響を軽減することができます
- 自分がどのような情報に影響を受けやすいのか、どのような偏りを持っているのかを認識することで、プライミングの影響を意識的に制御することができます
- 情報の一部だけではなく、文脈全体を把握することで、意図的な「切り抜き」によるプライミング効果を防ぐことができます
権威への訴求 (Appeal to Authority)
権威への訴求とは、ある主張の正当性を証明するために、その分野の専門家や権威者の意見を引用する論証手法です。テレビなどで頻繁に見かけるシーンだと思いませんか。
これは、人間が権威ある存在に頼りたいという心理を利用したもので、情報操作に利用されることがあります。
権威への訴求の本質的な問題点は、主張の正当性を、その主張の内容ではなく、主張者の属性(権威)に依存させてしまうことです。
本来、主張の正当性は、論理的な根拠や客観的な証拠によって判断されるべきなのです。
しかし、権威への訴求は、この論理的なプロセスを迂回し、権威者の言葉であれば無条件に正しいと信じ込ませようとするのです。(思考のショートカット)
人は、不確かな状況では、権威者の意見に、社会的な規範や集団の意思が投影されていると感じやすく、権威者の意見を、十分に吟味せずに受け入れてしまう傾向があるのです。
メディアにおける「権威への訴求」の悪用事例
- 何かあるごとに「○○専門家」と名乗る人が登場し、もっともらしい主張をしているのをよく見かけます
しかし、その専門性が本当に客観的に認められたものなのか、検証が必要です - 専門家ではない人物を専門家として紹介したり、都合の良い部分だけを切り取って引用したりすることで、誤った情報を広めます
例えば、ある健康食品の広告で、医師ではない人物を「医師監修」と偽って紹介し、商品の効果を誇大に宣伝する、といった事例なども見られます - 複数の専門家の意見がある場合、発信者にとって都合の良い意見だけを選んで引用することで、意図的に特定の結論を導き出そうとします
例えば、ある政策について、経済学者Aは賛成しているが、経済学者Bは反対している場合、賛成意見だけを報道することで、政策への支持を集めようとする、といったことが起こり得ます
メディアは、このような権威性を利用して、視聴者に特定の主張を受け入れさせようとする傾向があります。
ダマされないために
このような権威への訴求に惑わされないためには、その専門家は論理的な説明をしているのか、その内容は正しいのかを見極めることが必要です。
多くの場合、専門分野について、視聴者が判断するために十分な情報が提供されているとは限りません。事実を把握するためには、下記のような視点で多面的に観察することが求められれます。
- 専門家の肩書きだけをうのみにせず、その人の経歴や専門分野、過去の発言などを確認し、本当に信頼できる人物なのかを吟味することが重要です
- 一つの情報源だけでなく、複数の情報源を参照し、様々な意見を比較検討することで、偏った情報に惑わされないように注意が必要です
- 専門家の利益相反関係についても確認します
- 引用されている情報が、どのような情報源から来ているのかを確認し、その情報源の信頼性を評価することが重要です
- 権威者の意見であっても、論理的な根拠がなければ鵜呑みにせず、批判的に吟味する姿勢を持つことが大切です
- 専門家の意見だけでなく、一次情報(例えば、論文、研究データ、政府の発表資料など)にアクセスすることで、より客観的な情報を得ることができます
こうしてみると、専門家の意見に惑わされずに、事実を知ろうとするのは、結構厄介な作業を伴うことが分かります。
感情への訴求 (Appeal to Emotion)
私たちは情報を処理する際に、論理的な思考だけでなく、感情も重要な役割を果たしています。感情への訴求は、この思考と感情の密接な結びつきを利用して、人々の判断や行動を特定の方向に誘導しようとする手法です。
感情への訴求とは、論理的な根拠ではなく、文字通り人の感情(喜び、悲しみ、怒り、恐怖、不安、同情、愛国心など)に直接働きかけることで、人々の判断や行動を促す手法です。
強い感情は、客観的な思考を妨げ、判断を歪める可能性があますし、感情に訴えかけることで、理性的な判断だけでなく、感情に基づいた行動を促す効果も期待できます。
また、感情と結びついた情報は、単なる事実情報よりも記憶に残りやすいという特性もあります。これは、感情が記憶を司る脳の部位(扁桃体など)と密接に関連しているためです。
しかし、この手法は悪用された場合、人々の判断を大きく歪め、深刻な影響を及ぼす可能性があります。また、感情は行動を促す強力な動機付けとなるため、意図的に感情を操作された場合、冷静な判断ができなくなるリスクがあります。
感情に訴えかける情報にばかり触れていると、客観的な事実や論理的な根拠に基づいた判断ができなくなる可能性があります。
メディアにおける「感情への訴求」の悪用事例
- 恐怖、不安、怒りなどのネガティブな感情を煽ることで、特定の政策への反対や、特定の集団への敵意を煽ります
例えば、過去には、ある事件に関する報道で、容疑者の国籍や民族を強調することで、特定の集団に対する偏見を助長するような報道が見られました(具体的な事例は、偏見助長を避けるため、ここでは伏せます)
また、テロ事件などの報道において、映像や音楽を効果的に使用し、視聴者の恐怖心を煽り、特定の政策への支持を集めようとする例もあります - 愛国心、正義感、同情心などのポジティブな感情に訴えかけることで、特定の政治家や政策への支持を集めます
例えば、災害時の復興支援の報道において、被災者の苦境を強調することで、人々の同情心を刺激し、寄付を促す、といった例があります
これは、善意に基づく行動を促す場合はいいのですが、必ずしも情報の発信者が正し行動を意図してないこともあるので、発信者の見極めには注意が必要です
ダマされないために
感情的な情報に触れた際には、そこで自分がどのような感情(例えば、怒り、悲しみ、不安など)を抱いているのかを自覚し、その情報がどのような意図で伝えられているのかを意識し、冷静に情報を分析する姿勢を持つことが重要です。
その上で、情報に対して批判的な視点を持つことも重要です、具体的には、以下の視点で情報の内容を吟味しましょう。
- 感情的な反応に流されることなく、情報の内容を客観的に分析することが重要です
・例えば、怒りを感じるニュースを見た場合、その怒りの原因が情報の内容自体にあるのか、それとも情報の発信者の意図的な操作によるものなのかを区別するようにします - 感情的な言葉遣い(例えば、「絶対に許せない!」「断じて反対!」など)が多く使われている場合、感情への訴求が行われている可能性を疑う
- 情報の出所を確認し、その情報源の信頼性を評価することが重要です
- 一つの情報源だけでなく、複数の情報源を参照し、様々な視点から情報を比較検討することで、偏った情報に惑わされないように注意が必要です
- 感情的な表現だけでなく、論理的な根拠や客観的なデータに基づいた情報も確認するように心がけましょう
- 感情的な情報に触れた時は、時間を置いてから冷静に判断する姿勢も重要です
情報の選別と隠蔽 (Cherry-Picking and Suppression)
情報の選別と隠蔽とは、情報の発信者が、自分にとって都合の良い情報だけを選んで提示し(情報の選別)、都合の悪い情報を意図的に隠蔽する(情報の隠蔽)ことで、受け手の認識を操作する手法です。
これは、メディアに限らず、政治、広告、日常生活など、様々な場面で見られる情報操作の手口です。
この手法は、提示された情報だけを見ていると、事実とは異なる印象を受けてしまうため、非常に効果的です。そのため、情報を受け取る側は、常に情報の全体像を把握しようとする意識を持つことが重要です。
メディアにおける「情報の選別と隠蔽」の悪用事例
- 特定の統計データや調査結果などを選択的に引用することで、自らの主張を有利に見せかけます
・ある政策の効果を宣伝する際に、都合の良いデータだけを提示し、都合の悪いデータは隠蔽する
・ある商品の効果を示すグラフで、意図的に縦軸の目盛りを操作し、効果が大きく見えるようにする - 反対意見や批判的な情報などを意図的に報道しないことで、人々の目に触れさせないようにします
・ある政策に対する反対運動が大規模に行われているにもかかわらず、そのことを全く報道しない
・過去の不祥事など、自分にとって都合の悪い情報を隠すために、他の話題で人々の関心を逸らそうとする
・特定の統計データや調査結果などを選択的に引用することで、自らの主張を有利に見せかけます - 情報の一部だけを切り取って提示することで、本来の意味とは異なる解釈を誘導しようとします
・ある人物の発言の一部だけを切り取って報道することで、その人物の意図とは異なる印象を与えようとする
ダマされないために
この手法に対する最も重要な視点は、メディアから発信される情報に接したときに、論じられている出来事や問題の全体像を把握しようとする姿勢です。
提示された情報が、その全体像のどの部分を切り取ったものなのかを意識することで、情報の偏りを見抜くことができます
その上で、具体的には、以下の点を注意して確認する意識を心がけましょう。
- 提示された情報において、重要な情報が意図的に欠落していないか疑うことが重要です
・否定的な情報ばかりが強調され、肯定的な視点での情報がほとんど伝えられていない場合、情報の偏りや隠蔽を疑う必要があります - 一つの情報源だけでなく、複数の情報源を参照し、様々な視点から情報を比較検討することで、情報の偏りや隠蔽された情報に気づくことができます
・特に、異なるメディアや、専門家の意見、一次情報(政府の発表資料など)を参照することが有効です - 情報がどのような目的で、誰によって発信されているのかを考察することで、情報の偏りや意図的な隠蔽を見抜くことができます
・特定の企業がスポンサーになっている番組では、その企業にとって都合の良い情報が強調される可能性がある - 提示された情報が、客観的なデータや論理的な根拠に基づいているのかを吟味することも重要です
・感情的な表現や主観的な意見だけでなく、客観的なデータや根拠に基づいた情報を確認するように心がける
反復 (Repetition)
反復とは、文字通り、同じ情報が繰り返し伝えられることで、人々の記憶に残りやすくなり、ついには真実であるかのように認識されるようになる心理現象を利用した情報操作の手法です。
これは、人間が情報を処理する際に、繰り返し接する情報ほど重要だと判断し、記憶に定着させやすいという特性に基づいています。心理学では「真実性の錯覚(Illusory truth effect)」とも呼ばれます。
反復は、単純な手法ではありますが、その効果は大きく、軽視することはできません。特に、情報過多な現代社会においては、繰り返し目にする情報ほど、深く考えずに受け入れてしまう傾向があります。
メディアにおける「反復」の悪用事例
- 広告や政治キャンペーンなどで、特定のキャッチコピーやスローガンを繰り返し使用することで、人々の意識に強く印象付け、商品や候補者への好感度を高めようとします
例えば、選挙キャンペーンで「○○で日本を元気にする!」といったスローガンが繰り返し使用し、有権者の意識に訴えかける例がなどがあります - 誤った情報やデマなどを繰り返し流布することで、最初は疑っていた人も、何度も目にすることで徐々に信じ込ませようとします
これは、インターネット上のデマ拡散などでよく見られる手法です
例えば、ある病気に関する誤った情報がSNSで繰り返し拡散され、多くの人がそれを信じてしまう、といった例があります - 特定の事件や出来事について、特定の視点だけを繰り返し報道することで、人々の認識を特定の方向に誘導しようとします
例えば、ある犯罪事件について、容疑者の背景ばかりを強調する報道を繰り返すことで、社会全体の不安を煽る、といった例があります
ダマされないために
- まず、その情報に「反復」の手法が利用されている可能性を認識することが重要です
・同じ情報が繰り返し提示される際には、意図的な反復による情報操作を疑いましょう - 感情をあおるような情報や、根拠が不明瞭な情報が頻繁に繰り返される場合には特に注意が必要です
- 情報の出所を確認し、その信頼性を評価するようにします
・特に、匿名の情報源や、過去に誤りのある情報を流したことがある情報源は信頼性が低いと判断できます - 複数の情報源を参照し、様々な視点から情報を比較検討することが重要です
- なぜ特定の情報が繰り返し伝えられるのか、その目的を常に疑問に思う批判的思考の習慣を持ちましょう
認知バイアスへの理解を深めるために
メディアに関しては、「受動的な姿勢」では見抜けない認知バイアスが複雑に駆使されていることが少なくありません。視聴者には高い情報リテラシーが求められているのです。
この記事でご紹介した認知バイアスも、人の思考にかかわる200を超える様々な認知バイアスのほんの一部です。
しかしこうした代表的な認知バイアスの働きを一つづつ理解していくことは、自分の思考の源泉を知ることに繋がり、やがて深い思考につながる素地が整います。
もし、少しでも興味がわいたら、他の関連記事も参照してみてください。
まとめ
この記事で紹介した認知バイアスは、情報操作の手口のほんの一部です。
情報過多な現代社会において、情報リテラシーを身につけ、自分の頭で考え、判断する力を養うことは、ますます重要になっています。
この記事が、皆さんの情報リテラシー向上の一助となれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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