釣った魚、本当に美味しく食べられていますか?
実は、釣った魚の味は、釣り上げた後の処理で劇的に変わります。せっかくの新鮮な魚も、船上での処理、持ち帰り方、そして捌き方を間違えると、その美味しさは半減どころか時には台無しになってしまうのです。
かういう私も、釣り歴は長いのですが「釣った魚を美味しく食べる」ことができるようになったのは比較的最近のことです。
このブログでは、釣り人だからこそ味わえる『別次元の美味しさ』を実現するために欠かせない、魚の正しい捌き方における重要な4つのポイントをできるだけ丁寧にご紹介します。
魚を釣り上げることだけでなく、その魚を最高の状態で味わうところまでが釣りの醍醐味と言えます。自分で処理した魚を、最高の状態で味わう喜びをぜひ体験してください。
その前に:最も重要なことは「鮮度の維持」
釣った魚の鮮度の維持は、全てに優先してとても重要です。釣ってからも、持ち帰る時も、捌くときも!

4つのポイントの前に、まずはこれは前提条件となりますのでご注意ください。
どんなに上手に捌けても元の鮮度管理が不適切なら、それ以上の品質にはできないからです。
その意味では、捌く前に釣り場での管理と、持ち帰り方がとても重要になります。このあたりは別の記事でご紹介していますので、良かったらご覧になってください。「なぜそうなのか」にこだわってご説明しているつもりです。
👉釣った後の魚の鮮度維持や持ち帰る上での注意点に関する記事はこちらをご覧ください。
魚を捌くときに重要なポイントは大きく4つ
魚を捌く上での重要なポイントは以下の通りです。
具体的には個別に「なぜか」を含めてご説明していきます。
- 水洗いは一度だけ、魚の汚れを水道水で短時間でしっかり洗う
- 洗い終わった後の魚はすぐにしっかり水をふき取り、きれいな容器に保管する
- 包丁はよく切れる包丁を整備し、魚の扱いも丁寧に
- 作業全般を通じて魚の鮮度管理を意識し、出来るだけ低温を維持する
魚の水洗いの重要なポイント
魚の水洗いの目的
- 海水魚に付着しているビブリオ菌の除去
・食中毒のリスクがありますので、水道水での洗浄が最重要です(水道水の洗浄で死滅します) - 汚れやヌメリなど、臭いや雑菌繁殖の元となる汚れの除去
・魚の体表のヌメリを放置すると雑菌が繁殖し、生臭さの原因となります - 内臓やエラ、血合いの除去・清掃
・臭いや雑菌繁殖を防ぐために特に重要です
・魚の血は最も早く腐敗する部分であり、血合い部は特に生臭さの原因となります
・魚は持ち帰ったその日のうちに内臓とエラ、血合いを除去して鮮度を保つことが推奨されます
水洗いは、水量たっぷりで丁寧にしっかり短時間で
魚は、真水に長時間触れることで、細胞が膨張・破壊され旨味成分が流出するのと、ぬるい水は魚の急速な鮮度低下の原因になります。短時間で素早く、しっかり水洗いすることがとても重要です。
そのため、下記の要領で、魚の水洗いは「一回だけ」でしっかり丁寧に行います。
- 水洗いの前に、最初に魚のウロコを掻き取ります
- 次いで、腹を開いてエラと内臓を取り出し、血合い部に包丁で切れ目を入れます
- 水は多めで、短時間で丁寧に、魚の外側、内臓部、血合いをしっかり洗います
・できれば、包丁を持たない方の手に軍手をして、特に魚表面のヌメリや汚れをしっかり洗います
・血合いを含む内臓側は、歯ブラシなどで丁寧に念入りに汚れを洗います(特に血合い)

※ヌメリや血合いは微生物の温床となりやすいため、丁寧に除去しましょう。
洗い終わったらすぐに拭き上げてきれいな容器へ
魚を水洗いする時にも、出来るだけ短時間で終わらせる重要性をご説明しましたが、そのあとの素早い拭き上げも同じくらい重要です。
水洗い後の魚の拭き上げが重要な理由
- 水分が魚の表面に残存すると、細菌が増殖する温床となります
- 魚の死後、自己消化酵素によって低分子化されたタンパク質や脂肪酸を栄養源として、細菌は水分がある環境で爆発的に増殖します
- わずかな時間で危険なレベルに達する可能性があります
- この微生物の増殖過程で、「トリメチルアミン」などの臭み物質が生成され、魚特有の生臭さが発生します。
したがって、水分を徹底的に除去することは、細菌の増殖を抑制し、臭みの発生を遅らせる上で不可欠です。
また、魚は水分を吸収すると細胞が膨張し、細胞膜が破壊され、身がパサついたり、水っぽくなったりする原因ともなります。

「水洗い、拭き上げ後の魚」の衛生管理の重要性
水洗い前の魚に付着していたビブリオ菌やヌメリ、汚れ、内臓や血合い、エラなど臭いや雑菌は、水洗いが完了し拭き上げた魚からは完全に遮断します。
- 水洗いして拭き上げた魚は、きれいな容器に移して保管する(できれば低温環境で)
- 手・包丁・まな板・器の汚れを意識し、拭き上げた魚の処理をする時は、手や、まな板や、包丁はきれいに洗ってからおこないます
・つまり、魚の下処理とその先の魚を卸す作業は別工程として理解し、段取りを分けます! - 水洗い後の魚を触る手はできればニトリルグローブなど料理用手袋をします(包丁を持たない方の手)
これは衛生管理の面で重要なのと同時に、魚の生臭さの防止の点で非常に重要です。
切れない包丁では新鮮な魚も台無し
切れない包丁は、魚の身の細胞を潰し、身の繊維を潰し身質劣化します。
これにより、ドリップ(細胞から流れ出る水分や旨味成分)の流出が増加し、魚本来の旨味が損なわれ、食感がパサつく原因となります。
よく切れる包丁で捌いた魚と、切れない包丁で捌いた魚では、食べた時にその違いがはっきり分かります(経験者の弁!)。

釣行が決まったら、まずは包丁研ぎです!私は、砥石や砥石直しなど買い揃え、YouTube動画で包丁研ぎを勉強し、何とかまともな包丁を準備できるまでになりました(たぶん?)。

魚の扱いも重要
包丁で魚の繊維にダメージを与えないのと同じくらい、魚を強く押したり乱暴な扱いも厳禁です。
魚の身を強く押える行為は、細胞を潰しダメージを与えてしまいまうので厳禁です。
ウロコを取る時も、魚方向に強く力をかけないように気をつけましょう。
鮮度維持の面で温度管理は非常に重要
魚を捌く時も、下記の理由で魚の温度管理は非常に重要です。
- 魚は死後、自己消化酵素による分解と細菌増殖が進むため、常温では特に劣化が加速します
- 細菌の繁殖は温度が高いほど加速します
- 特に真夏の調理場では数分で表面温度が上がります
- 夏場の水洗いでは、水温が高いので特に短時間での水洗いが重要となります。
- 魚の脂は融点が低いため、長時間室温に置くと脂が溶け出して身の旨味を損なう原因となります
迅速に処理を終え、常に低温を保つことで、鮮度と身質の劣化を最小限に抑えられます。
刺身など生食する魚は、調理後のわずかな時間でも冷蔵庫で保存しましょう(最適温度は3~4℃くらい)。
捌いている時も魚は出来る限り冷やす必要があります。そのための環境準備も重要です。
慣れないうちは、ある程度まとまった数の魚を扱うときは特に気をつけましょう。

- 暑い時期はエアコンの設定温度を低めにして活用
- 時間がかかる時は一時的に、都度こまめに冷蔵庫へ
- 一時保管用トレイ、仮置きバット、柵取りした魚を取り分ける容器も出来るだけ冷やしておく
- 複数の魚を一度に処理する場合は流れ作業で行います
冷やしたバット(できれば水切り付き)を準備しておき、処理途中の魚を仮置きで並べます
魚を美味しく食べるための更なるチャレンジ
熟成という楽しみ
釣り人には、新鮮な魚を持ち帰った後にその魚を熟成するという、最大のお楽しみもあります。
特にタイなどの白身魚は失敗も少なく、効果も絶大なので特にお勧めです。
熟成魚は、寿司屋さんか料理屋さんでいただく以外は、釣り人しか経験できない貴重なお楽しみで、その味は最強です!
ただし、釣り上げてからの鮮度管理、持ち帰り方など、少しばかりの手間は必要です。熟成魚を楽しみたい方には、別記事で細かいご説明をしていますので、是非ご覧になってチャレンジしてみてください。
👉熟成魚に関する注意点は手順などはこちらの記事をご覧ください。
臭み取りの裏技
タテ塩:刺身の臭み取り
鮮魚の臭み取りには塩水で洗う方法があります。
約1%程度の塩水(立て塩)で短時間(数秒)くぐらせることで、魚の身の表層から余分な臭みを含む水分を引き出します。
- 白身魚は0.8〜1.5%程度、青魚は0.8〜2%程度が目安
- 口当たりと保存性が向上すると言われています
- 青魚は、くぐらせる時間を少し長くしても良いようですが、刺し身が塩辛くならない範囲で調整が必要です
- 塩水で短時間洗った後、更にすぐに氷水で素早くすすいで締める方法もあります
・酵素の働きを抑制し、鮮度と身の締まりを同時に保つこともできます
処理後は、素早くキッチンペーパーなどで水分をしっかり拭きとります。
効果
- 魚の表面のトリメチルアミンなどの生臭成分、血液酸化物、雑菌由来の臭気物質などの臭み成分を引き出し、臭みが軽減されます
- 同時に塩は表面に薄いタンパク質膜を形成し、旨味流出を防ぎつつ身を引き締め、食感も向上します
「炙り」の効果
生食用には、皮目をバーナーで焼く「炙り」という処理もお勧めです。
- 風味と香ばしさの向上
・炙りの最大の目的は、魚の皮と皮下の脂に火を通すことで生まれる独特の香ばしさと風味です
・加熱により、魚の皮から余分な水分が飛び、脂肪分が溶け出して、香りの成分が生まれます
・この香りは、刺身の食感と合わさることで、生食とは一味違う奥行きのある味わいを作り出します - 食感の変化
・炙ることで皮目の組織が変化し、生の状態よりも歯ごたえが増します
・パリッとした皮の食感と、しっとりとした身のコントラストを楽しむことができます
大型の魚などで、皮が厚い場合は、十分に炙らないと皮目が固くなります。
炙り加減は経験で加減を調整することが必要ですが、刺し身より炙りの方が好きという人もいるほどです。
是非お試しください(バーナーは1000~2000円程度で入手可能です)。
炙ったあと、氷水で締める人がいますが、個人的には特に必要ないと感じています。
「湯引き」の効果
生食用に行う場合は、「湯引き」として短時間で皮目だけに湯をかけます(氷水で締めることもあります)。
炙りに比べると、皮目は柔らかくなり、炙りのような香りは出ませんが、脂が溶けることで味わいが変わります。
「洗い」による効果
「洗い」とは、薄造りや糸造りにした魚介を冷水または氷水に浸し、身が反り返るまで洗う技術です 。
- この技術は、特に活きの良い魚にのみ有用です
- 新鮮な魚のATPを洗い流すことで死後硬直を強制的に起こさせ、筋肉が収縮し身が締まります
- 旨味成分の流出を伴うため、通常の水洗いとは目的が異なります
- 表面のタンパク質や脂質も洗い流され、脂っこい魚をさっぱりとした食味に変え、臭みを軽減します
- 浸透圧によって水分が細胞内に入り味わいが淡くなる側面もあります
「霜降り」の効果
「霜降り」は、魚の切り身に熱湯をかけたり、さっと湯通しし、汚れや臭みを取る技術で、煮つけ前の臭み取りの下処理として行います。
- 熱湯をかけることで、魚の表面のタンパク質が瞬時に凝固し、ぬめりや血、微細な鱗などが浮き上がり、取り除きやすくなります
- 臭みの原因成分が熱によって揮発したり、溶け出したりすることで、臭いが大きく軽減されます
- 熱湯をかけすぎると魚が硬くなったり、風味が損なわれる可能性があるため注意が必要です
- 80℃程度の熱湯で短時間で行い、すぐに冷水で冷やすことが重要です
まとめ

釣り人の特権は、上手く行使できると「この上ない美味」をもたらしてくれます。
私は自分で釣った魚が一番おいしと思っていますし、外食でこれより美味しいお刺身に出会うことは殆どなくなりました。
それほど難しくなくて、少しの努力である程度美味しくなりますし、更に頑張るととても美味しくいただけるようになります。
皆さんも、せっかく釣った魚を、この世で一番おいしく食べることにチャレンジしてみませんか。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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