かつて“世界の成長エンジン”と呼ばれた国が、いま深刻な構造不況に沈んでいます。
SNSの一部でしか報じられませんが、状況は深刻です。
地方政府の隠れ債務、不動産バブルの崩壊、若者の大失業──。
さらにEVや半導体など補助金頼みの産業政策は、需要を無視した過剰供給を招いています。
その背景には、「国家が市場を支配する」モデルの制度的な限界がありました。
本稿では、中国経済の失速をもたらした政策のメカニズムを整理し、日本のバブル崩壊との共通点、そして私たちが学ぶべき教訓を読み解きます。
経済は国家の思惑では動かない。需給という自然法則を軽んじたとき、どんな国家も例外なく崩れる──それがいま中国が示している現実です。
だからこそ、この失敗を“隣国の話”で終わらせてはいけません。
第1章 崩壊する中国経済:富の消滅と未来の喪失が国民を直撃
不動産バブルの終焉:地方政府の土地依存とオフバランス債務の拡大
中国経済を支えてきた最大の成長エンジンは「不動産」でした。地方政府は土地を売却することで巨額の財源を確保し、その資金で公共投資を拡大してきました。
しかし、この「土地財政」モデルは終焉を迎えています。
- 中国のGDPに占める不動産関連の比率は20〜30%超とされ、これは他の主要国と比べても異常に高い
- 不動産価格の上昇が「老後の保障」「結婚の条件」「投資の唯一手段」として機能してきたが、これは社会保障制度の未整備と金融市場の未成熟の裏返しでもある
- 一部では供給量が需要の2倍以上と指摘され、幽霊都市・未完成マンション問題が全国に拡大
地方政府融資平台(LGFV)を通じたオフバランス債務は1,000兆円超に達し、一部推計では1520兆円規模に膨張しているとされます。これは中国GDPの実に80%前後に相当し、返済不能リスクが地方から連鎖的に波及する構造を生んでいます。
※オフバランス債務:公式なバランスシートの「貸借対照表」に未計上の隠れ債務
国民資産の大半を占める不動産価格の暴落
中国では国民資産の約7割が住宅不動産に集中しています。その柱が崩れた影響は甚大です。
その価格が2020年以降 20〜30%下落、地方都市では50%超の下落もみられます。
恒大集団(Evergrande)の経営破綻は象徴的で、未完成住宅を抱えたまま債務総額約3,300億ドル(約50兆円)を残しました。
国家統計局(NBS)のデータによれば、2024年の商業建築販売床面積は約9.74億㎡で、住宅販売は前年比14.1%減少。さらに、完成済み未販売住宅は3.9億㎡(約390万戸相当)に達し、JPMorganなど民間推計では「広義在庫」が数十億㎡規模と見積もられています。つまり「必要以上の住宅を建て続けた結果、供給過剰が爆発的に積み上がった」のです。
ゴーストタウンとして知られる河南省の「鄭州・碧桂園プロジェクト」や内モンゴル自治区オルドスの「康巴什新区」などは、その象徴的事例です。

不動産以外の産業でも補助金依存による過剰供給スパイラル
EV・太陽光・リチウム電池などの「新三様」産業も、補助金による過剰投資→供給過剰→価格崩壊というサイクルに陥っています。
- 生産能力の3割しか販売できない企業が続出し、EVメーカーは2023年に100社以上が倒産
- 太陽光パネルは価格下落で採算割れが常態化
- 2023年だけでEV関連スタートアップの半数近くが市場から撤退
- 半導体は米国の制裁により輸出先を失い、国内余剰在庫が拡大
若者の失業率と「消費崩壊」
供給過剰の大卒人材と、雇用を吸収できないほどの産業構造の歪みに、経済の大減速が重なった結果、中国の若者の失業率は壊滅的な水準を推移しています。
就職できない若者が増える一方で、教育・住宅ローン・出産費用に対する不安が消費を抑制し、「投資も消費も冷え込む悪循環」に陥っています。
- 公表停止前の2023年夏時点の若者失業率:16.9%(一部推計では20〜21%)
- 独立研究機関推計:40〜45%
- 都市部大卒者の就職率は3割台
長期デフレと資本流出
- 2023年後半以降、CPIは前年割れが常態化
- 富裕層はシンガポール・香港へ資産移転
- 外資系企業はベトナム・インドに生産移転
- 2023年のFDI(対中投資)は25年ぶり低水準
急速な信用収縮の結果、経済の「空洞化」は現在進行形で、今後さらなる深刻化が予見されるのです。
第2章 中国の急成長の末路:経済原理を無視した国家主導の限界
成長モデルの変化と制度的転換
中国の成長モデルは以下の変遷を経てきました。
- 1980〜2000年代:輸出と外資依存の『世界の工場』モデル
輸出本位の工場化(外資誘致+労働集約型製造)で急成長 - 2000年代-2015年頃:投資/不動産主導の経済政策にシフト
『投資・不動産拡大』へシフトし、地方政府の土地売却と不動産投資が経済成長の中心 - 2015年頃〜:国家資本主義・補助金拡大
・国家主導の産業政策(補助金・国有資本強化)が顕著になり、民間創意⇒国家の選択に傾倒
・効率的な需給調整メカニズムを弱め、政策の失敗が経済全体の歪みとして蓄積した
・結果として、需給を反映しない大型投資が累積し、制度的歪みが顕在化した
現在の中国経済の崩壊を招いたのは、2000年代~2015年頃の投資・不動産主導モデルが根本的な“地雷”を埋め込み、2015年以降の国家資本主義・補助金拡大政策がその爆発を加速させたといえるものです。
家計消費比率の低さ
中国では、家計最終消費はGDP比で先進国より低い水準にあり(約38〜40%前後)、投資が萎む局面で内需が代替的に支えきれない構造と言えます。
投資偏重→不動産バブル→投資縮小という流れは、内需が強ければ緩和されますが、中国ではその緩衝力が限定的でした。
- 中国の個人消費のGDP比は約38%(2024年時点)で、米国(約68%)や日本(約55%)と比べて極端に低い水準
- 消費が伸びない理由は、所得の伸び悩み・社会保障不安・若年層の失業率の高さ(実質30〜50%とも)
- 現在の消費者心理は「投資から貯蓄へ」「起業から公務員へ」と保守化しており、経済の活力が加速度的に失われつつある
「需給」を無視した投資モデル
- 高速鉄道や巨大空港は整備されたが利用は低迷
- 地方都市には入居者のいない住宅群が放置
実需を無視した投資は、数字上の成長を演出しただけで、資本効率を著しく損ないました。
- 2024年の販売床面積の公式統計(NBS):約9.74億㎡・住宅は前年比で−14.1%
- 完成済みかつ未販売の住宅在庫(2024年4月時点の報道):政府ベースで約3.9億㎡とされる
・JPMorgan等の広義推計は売り物件の未販売在庫:18〜29億㎡(※推計方法差あり)級と評価しており、政府発表とのギャップが大きい
・数値には不確実性があるが、在庫量が大きく推移していることは間違いない
1戸=100㎡で概算すると、ざっと以下のようになります。
「販売床面積」:970万戸分(2024年に売れた分)
「完成済み未販売」:政府統計では約390万戸
・しかし、民間推計では1,800万〜2,900万戸と幅があり実態は不透明
そして今後の中国は、少子化により住宅需要は更に減少傾向なのです。
2023〜2024年にかけて、建設が中断された「爛尾楼(未完成住宅)」は 約750万戸 に上ると試算されており、これは2020〜2021年の予約販売戸数の約3割が引き渡し不能だったことを示しています。しかし、当時、着工時点でこれらの住宅は販売済みであり、住民には負債だけが発生しているのです。

構造不況の積み上げ
- 不動産 → 銀行融資 → 地方財政 → 産業投資
この連鎖が一斉に悪化し、「不況のドミノ倒し」が進行中
地方政府は、デフォルトを避けるため、オフバランス(公式なバランスシートの「貸借対照表」に未計上)の債務を、見かけ上処理した体裁で、別の名目の債務として計上する処理を進めていますが、実態は何も改善されていません。こうした財務上の操作は海外からの信用を失い、資本の引き上げの流れが進んでいるのです。
政策の失敗と持続不能性
- 公式成長率:5.2%(2025年第2四半期)
- 実態推計:2〜3%前後との見方が有力
「数字の粉飾」と「政策の硬直性」が長期停滞を深めています。
今後、中国経済の負の連鎖がどこで破滅的なプロセスに進むのかは不明ですが、過去に例のない信用破綻であり、今後の状況変化からは目が離せません。
第3章 中国経済の危機の行く末と世界への波紋
長期デフレと信用収縮
不動産・投資不況で金融機関が貸し渋りの局面を迎えています。
結果、企業も投資縮小 → 雇用悪化 → 消費縮小の悪循環に陥っています。
地方政府は、債務の縮小を求められており、公務員への給与の支払い遅延や不払いが報告されています。高い失業率、不動産の大幅な下落による資産の喪失や負債により、国民生活は大きく棄損しているのです。
世界貿易・サプライチェーンへの影響
- 中国需要の低下 → 鉄鋼・資源国の収入減
- 安価なEV・太陽光パネルのダンピング → 世界市場混乱
- 日本企業はサプライチェーンを中国依存から脱却へシフト
中国は、今後「世界の工場」としてのポジションを、どこまで維持できるのかが怪しくなりつつあります。
金融市場への不安拡大
- 香港市場の低迷
- 外貨準備の減少 → 通貨危機リスクも
巨大市場としての中国経済の急速で大きな衰退は、世界の金融市場に不安を波及させる要因となっています。
ただし、中国は依然として巨大な外貨準備高(約3兆ドル超)を保有しており、これを原資として、市場で直接ドルを売って人民元を買う為替介入を随時実施するため、人民元に限れば一定の下落抑制効果があります。

地域差と見せかけの回復
人口が3000万人を超える大都市「重慶」や、有名な観光地での街の景況感は表面的には明るいですが、全国的な指標(在庫面積、若年失業、LGFV債務)を見る限り、構造問題は解決していません。そして、その「重慶」ですら、土地への過剰投資による債務問題は大きく影を落としているのです。
地域的な繁栄と全国的な脆弱性が同時に存在しますが、それすら時間的な遅れを伴う過渡的なものであり、いずれ同じ衰退に向かう可能性を見誤ってはならないのです。
回復の道筋はあるのか
復帰可能性があるとすれば、それは社会保障・金融・財政・産業の四本柱を同時に再設計する「構造改革モデル」だと言われています。しかし、指導部が本気で「共産党の権威失墜」に直結する選択をする可能性は低いとも言われています。
その意味で、中国の危機は単なる金融危機ではなく、体制危機に近い性格を帯びつつあると考えられます。
現状の課題の整理
領域 | 現状 | 主な影響 |
---|---|---|
不動産 | 長期にわたり過剰投資・供給(需要の2倍規模との指摘も) | 不良債権の山、価格下落、家計資産の毀損 |
地方政府債務(LGFV) | GDP比でも巨額、オフバランス債務が不透明 | 財政余力喪失、社会保障や公共サービス圧迫 |
製造業・EV産業 | 補助金依存で過剰生産、在庫の山 | 値崩れ、国際摩擦、民間企業の淘汰 |
個人消費 | GDP比で30%前後と低水準 | 内需拡大できず、外需依存度が高い構造 |
物価動向 | デフレ傾向(需要不足・価格下落スパイラル) | 投資・消費マインドの低迷 |
雇用状況 | 若年層失業率が公式統計でも20%超、実際はさらに高いとの見方 | 就職難、経済活動の停滞 |
人口動態 | 未婚化・少子化が急速進行(出生率世界最低水準) | 長期的な労働力減少・社会保障制度の破綻リスク |
政治・制度要因 | 共産党主導の統制経済的運営、透明性欠如 | 改革遅延、外資撤退、国際的信用低下 |
中国復活のシナリオ:実現可能性は高くない
- 透明性改革:統計の正直な公開、不良債権の実態公表 → 国際的信頼回復
- 内需シフト:住宅投機依存から、教育・医療・社会保障などへの支出誘導、消費底上げ
- 地方債務の整理:LGFVを段階的に破産・再編し、中央が選択的に救済
- 抜本的構造改革:国有企業の民営化と地方財政の再設計などにより、「最低限の生活保障」へ
具体的な施策例:果てしなく遠い道
- 不動産に代わる「老後の安心」を提供するために、都市・農村住民基本年金の拡充が不可欠
- 公的医療・教育・住宅支援の強化により、消費者心理の安定と消費拡大を促す
- 株式・債券・年金ファンドなど、不動産以外の資産形成手段の普及が急務
- これにより、資本の偏在とバブル体質を是正し、健全な資産運用文化を育成
- 土地財政から脱却し、税収の再配分・中央からの財政移転制度の見直しが必要
- 地方政府の役割を「開発」から「福祉・教育・環境」へと転換する
- 補助金による供給拡大ではなく、消費者ニーズ・国際市場の実需に基づく産業育成へ
- 技術革新と国際競争力の両立を図るための戦略的転換
2024年11月、中国政府は地方政府の「隠れ債務」処理に10兆元(約210兆円)を投じる方針を全人代で承認しましたが、この10兆元は新たな需要創出ではなく、過去の債務の穴埋めに使われるため、景気刺激効果は限定的です。
つまり、財政出動の余地は帳簿上も制度上もほぼ枯渇しているのが現実です。
第4章 私たちへの教訓:「経済的知見なき政治」の危険性
経済原理を無視する政治のリスク
「政治が経済を支配した結果」、市場原理が歪み、破綻へ向かう。
これは中国の事例に限りません。
かつての日本のバブル期、アメリカのサブプライム住宅ローン危機、現代日本の半導体・再エネ補助金政策など、「需給を無視した経済政策」は、いつの時代にも重大な経済危機のリスクをはらんでいるのです。
日本のバブル崩壊との類似と相違
日本のバブルと比較しても、今回の中国の経済危機は長く深い傷を負っており、より深刻なことがわかります。
観点 | 日本のバブル崩壊(1990年代) | 中国の現在の経済危機 |
---|---|---|
資産バブル依存 | 土地・株式バブル崩壊 → 銀行の不良債権化 | 不動産価格崩壊(都市部資産の70%依存)→ LGFV債務100兆元超 |
雇用と国民生活 | 「就職氷河期」だが失業率5%前後 | 若年失業率40〜45%、大卒就職率30%台 → 消費崩壊 |
政策対応の歪み | 金融緩和+公共事業 → 財政赤字拡大 | 補助金でEV・半導体など過剰供給 → 需給崩壊 |
世界への影響 | 主に国内問題(「失われた10年」) | 外資撤退・資本流出 → 世界供給網・金融市場に波及 |
日本におけるバブル後において、「成長なき30年」ながらも今日があるのは、下記のような制度の救いがありました。
- 市場価格による資源配分(価格が需要と供給を調整する)
- 民間投資と消費の意思決定が政策と対話できる構造
- 政策の失敗に対する修正メカニズム(議会・選挙・報道)
経済は「需給」だけでなく、「需給を調整する制度の質」も重要なのです。
中国の失敗から学ぶこと
- 政策決定には経済学的知見が不可欠
- 短期成長よりも持続可能性を優先すべき
- 国家主導型経済は、初期の成長には有効でも、成熟期には制度的柔軟性が不可欠
- 需給バランスを無視した投資主導型成長は、必ず資産バブルと制度疲弊を招く
- 情報の透明性・市場との対話・制度の修正能力がなければ、経済は自壊する
- 国民一人ひとりが「政治を選ぶ目」を持つ必要がある
中国の失敗は、専制的な中央政府による国家権力の暴走といえますが、経済的な視点で見れば、その本質は「需給バランスを無視した経済政策」は「破綻する」ということです。
大切なのは、施政者の経済的な資質であり、国民の賢い監視の力なのです。

政治を見る目
- インフラ整備の口実で投資集約型成長を指向してないか
- 選挙の集票システムとして、地方に無駄な公共投資を誘導してないか
- 将来的な人口動静にバランスした施策が実行できているか
- 成長事業への投資バランスが適切か
- そこには利権、裏金による一部の搾取は生まれてないか
過剰供給・外需依存・内需軽視 による誤った認識の代表例
- 不動産は永遠に上がる
- 輸出主導で世界市場に依存すれば安定成長できる
- EVやAIなど戦略産業に国家資本を集中させれば国際競争力を握れる
おわりに
中国経済の現在は、国家主導の社会実験の末路として、かつてない深刻な構造不況に陥っています。地方債務、不動産暴落、若者失業、産業過剰投資――そのすべてが国民生活を直撃し、世界に波紋を広げています。
日本もかつてバブル崩壊で「政治の誤り」による長期停滞を経験しました。
今こそ中国の現実を「他山の石」とし、政治と経済を正しく理解し、誤りを選ばない知恵を持つべき時です。
「私たちの国の危うさ」は、国民の自覚なくして救えないものかもしれません。
経済は「統治の道具」ではなく「生活の基盤」であるべきなのです。
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