多くの人が、学んだ知識や、巷に溢れる情報の中に「答え」を探し続けているかもしれません。
しかし、運よく見つかる答えはごく稀で、多くの場合、そこに潜むのは誰かの「養分」となる意図的な誘導だということに気づいているでしょうか?
自分にとって本当に価値ある答えは、AIが瞬時に教えてくれるような、誰もが容易に手に入れられる情報の中にはありません。
では本当に価値ある答えは何処にあるのでしょうか? それは、自ら問いを立て、深く調べ、検証し、そして考え抜くことで見つけたことの中にしかありません。
私たちは今、人の思考を深く紐解き、その仕組みを理解し、活用していく意識が不可欠です。
この記事では、自分軸で考える力の育てるために重要な「3つの思考の軸」を、現代の認知科学の視点でご紹介します。
1. なぜ「思考の仕組み」を学ぶ必要があるのか
現代社会は「情報洪水」と言われる時代です。SNSやニュース、検索エンジンを開けば、あらゆるテーマについて誰かの意見やデータが見つかります。しかし、目の前にある情報が「事実」なのか、それとも「誰かの都合で編集された断片」なのかを見抜ける人は多くありません。
もし私たちがただ受け取った情報をそのまま信じ込んでしまえば、自分で考えたつもりでも、実際には「他者のフレーム」に組み込まれた思考をなぞっているに過ぎません。
だからこそ、自分の頭で考える力、すなわち「自分軸の思考」を育むことが大切です。
その第一歩は、「人の思考の仕組み」を理解することです。思考は感情や経験に左右される曖昧なものではなく、心理学や認知科学の研究によって多くの法則性が明らかになっています。
ここでは特に重要な三つの観点を紹介します。
- 二重過程理論(システム1とシステム2)
- 思考のフレーム(スキーマとメタファー)
- 認知バイアス
これらを理解することで、「なぜ自分はこう考えたのか」「なぜ人は誤解や思い込みに陥るのか」が見えてきます。
2. 二重過程理論:システム1とシステム2
人間の思考は大きく二つのシステムで動いていると言われます。ノーベル賞科学者で心理学者のダニエル・カーネマンが唱えた二重過程理論です。
- システム1(直感的思考)
速く、自動的、感情に基づいた思考。危険を察知したり、日常の習慣的判断に役立ちます。例:「赤信号で止まる」「怒っている表情を見て危険を察する」。 - システム2(熟考的思考)
ゆっくり、意識的、論理に基づいた思考。数学の問題を解いたり、複雑な計画を立てるときに使います。
システム1は即時的で便利ですが、思い込みや錯覚に弱いという欠点があります。システム2は正確ですが、エネルギーを消費するため、日常では多用されません。
私たちは多くの場面でシステム1に頼りすぎる傾向があります。その結果、誤った判断を下したり、広告やニュースに誘導されやすくなります。
自分軸の思考を持つには、システム1の自動的反応をそのまま信じず、ときにシステム2を働かせて「本当にそうか?」と問い直す習慣が重要です。

3. 私たちは思考の枠組み(フレーム)
私たちは思考の高速化と効率化のため、世界をそのままではなく、必ず何らかの枠組み(フレーム)を通して解釈します。
その枠組み(フレーム)には段階や種類があり、大きく整理すると以下のようになります。
カテゴリーや概念は思考の基本単位であり、それをスキーマやモデルというテンプレートで整理し、アナロジーやメタファーというツールを使って思考を拡張します。これらすべては、私たちが情報を処理する際に無意識的に使うフレームを構成していると言えます。
思考の枠組みの具体例と課題
- カテゴリー
特定の性質を共有するものの集まりです。例えば、「動物」「植物」「道具」といった分類がこれにあたります
これは、私たちが世界を認識する際の最も基本的なグルーピングの機能です - 概念
特定のカテゴリーに含まれる、ものの一般的な性質や特徴を抽象化したものです
「犬」という概念には、「四本足で吠える」といった特徴が含まれます - スキーマ
これまでの経験から形成された「思考のひな型」
例:レストランに入ったら「席に案内され、メニューを見て、注文する」という一連の流れを自然に想像するのはスキーマがあるからです - モデル
特定の現象やシステムの構造や仕組みを簡略化して表現したものです
例えば、「太陽系のモデル」は、惑星の配置や動きを理解するのに役立ちます
これは、複雑な情報を理解可能な形に落とし込むための思考のフレームです - アナロジー
異なる領域にある二つの物事の間の類似性(共通点)を見つけ出し、一方の理解をもう一方に適用する思考法です
例えば、「心臓はポンプのようなものだ」というアナロジーは、心臓の機能を理解するのに役立ちます - メタファー(比喩的枠組み)
「人生は旅だ」「時間はお金だ」のように、抽象的な概念を具体的なイメージで捉える仕組み
メタファーは理解を助ける一方で、思考を制限することもあります

ただし、フレームは便利な反面、偏りや誤解を生むこともあるため、意識的に確認・再設計する必要があります。
スキーマやメタファーは便利ですが、同時に「思い込み」を強化します。例えば「経済=家計」というメタファーを強く信じると、国家財政を単純に「赤字=悪」と捉えてしまうかもしれません。
つまり、自分の頭の中にある「フレーム」が何かを理解し、ときにはそれを問い直すことが、他人の思考枠に囚われないために必要です。
4. 認知バイアス:思考のノイズ
私たちは生物としての存続のために、「瞬間の状況判断」を求められてきました。「認知バイアス」は、システム1の高速処理との関連で、「たまには間違えることもあるけど生存確立の高い選択」をするために、正確性を犠牲にして処理速度を手に入れるために備わったものなのです。
人は合理的に判断しているつもりでも、実際には多くの「バイアス(偏り)」に左右されているのです。
つまり、認知バイアスはもともと生存に役立つ“近道”の思考法だったのですが、現代の情報社会では、その近道がしばしば誤解や思い込みを生み、判断ミスにつながってしまうのです。
代表的な認知バイアス
- 確証バイアス:自分の信じたい情報だけを集める
- 利用可能性ヒューリスティック:思い出しやすい情報を「正しい」と思い込む
- アンカリング効果:最初に見た数字や情報に強く影響される

これらのバイアスはシステム1の影響下で起こりやすく、私たちの判断を歪めます。たとえば株式投資、健康情報、政治ニュースなど、バイアスに囚われたまま意思決定すれば、簡単に誤った道に進んでしまいます。
バイアスを完全に取り除くことはできません。しかし、「自分にも必ずバイアスがある」と意識するだけで、思考の透明度は大きく変わります。
5. 求められる情報リテラシー!
フェイクニュースや誘導記事を鵜呑みにしないためには「情報リテラシー」は最低限のスキルです。
情報リテラシーとは、「情報の真偽や出所を確認し、適切に活用する力」のことです。
しかし、情報リテラシーがあっても「自分の思考フレーム」や「認知バイアス」を理解していなければ、結局は他人の意図に巻き込まれてしまいます。
つまり、私たちは他人に騙されたり、利用されたりしないためには、思考の仕組みを理解し、自分軸で考え、高い情報リテラシーで情報の真偽を見抜くことが必要なのです。
6. 自分軸の思考を育むために
最後に、自分軸を育てるための実践的なステップを示します。
- 「自動思考」を疑う
私たちの思考は、無意識に瞬時に湧き上がり、過去の経験や価値観に影響されます。これを「自動思考」と呼びます。まず、その考えが本当に正しいか、自分に問いかけることが重要です。 - 問いを立てる習慣
与えられた情報を鵜呑みにせず、常に「なぜ?」と自分に問いかける習慣を持ちましょう。自分の内側から生まれる疑問こそ、思考の出発点です。 - フレームを可視化する
自分の思考のクセや枠組みを客観的に見つめる「メタ認知」を実践しましょう。「今、自分はどんなスキーマやメタファーで考えているか?」と自問し、思考パターンを理解します。 - バイアスを意識する
自分の思考に偏りがないか、定期的にチェックしましょう。「確証バイアスに陥っていないか?」「情報は都合よく解釈していないか?」と自問することで、より客観的な判断ができます。 - 情報リテラシーを実践する
受け身で得た情報には注意が必要です。情報の出所を確認し、安易に鵜呑みにせず、常に警戒心を持ちましょう。
こうした地道な習慣の積み重ねが、他人に流されない「知的体幹」を築きます。
結び
AIやインターネットは、誰にでも無限の情報を与えてくれます。しかし、それを「どう考え、どう判断するか」は依然として私たち自身の課題です。
システム1と2、思考のフレーム、認知バイアス──これらを理解することで、私たちは思考のクセを自覚し、情報に振り回されず、自分自身の判断基準を持てるようになります。
本当に価値ある答えは、情報そのものではなく、それを咀嚼し、自分の言葉で語れるようになったときに初めて手に入る。
これが「自分軸の思考」を育むことの意味です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント