テレビ討論を見て「なんでこんな話ばかりしてるの?」と思ったことはありませんか?
実は、私たちの思考には、知らず知らずのうちに判断を歪めてしまう「認知バイアス」というものが潜んでいるのだそうです。
そして、それは他人ごとではなく、私たち一人一人の問題でもあるのです。
私は、以前から「内集団バイアス」という価値観形成動機の一つに強く興味があり、今回認知バイアスについて少し掘り下げて調べてみました。
今回は、代表的な認知バイアスが、私たちの価値観や判断にどのように影響を与えるのかをご紹介したいと思います。
皆さんが「自分が何故そう考えているのか」、「それは正しいのか」を客観的に見つめ直すきっかけになれば幸いです。
はじめに
皆さんは自分が大切にしている価値観について、どれほど深く考えたことがありますか?
「正義」「平等」「自由」といった抽象的な概念だけでなく、毎日の生活の中で何気なく行っている選択一つ一つに、皆さんの価値観が反映されていますね。
物事を考える時、「自分は一貫性をもって、確固たる信念と考えに基づいて、いつもしっかりと物事を判断している」はずだと思っていませんか。
多くの人はそう思っていると思いますし、私もそう思っていました。
しかし、実は私たちの価値観は、固定されたものではなく、様々な要因によって変化する可能性があるのです。
その中でも特に大きな影響を与えるのが、「認知バイアス」と呼ばれる人間の思考のクセなのです。
認知バイアスとは?
認知バイアスというのは、私たちが物事を判断する際に、無意識のうちに特定の情報に過度に重きを置いたり、特定の解釈に偏ってしまう心理的な傾向のことです。
まるで、歪んだレンズを通して世界を見ているようなもので、客観的な判断を妨げてしまうことがあります。
そして、私たちは日常的に気付かないうちに、この認知バイアスに操られてしまっていることが少なくないのです。
認知バイアスが生まれるメカニズム
私たちが認知バイアスに陥ってしまうメカニズムとして、いくつかの要因が指摘されています。
- 経験に基づく学習:私たちは、過去の経験や学習によって、特定のパターンを認識し、それに基づいて判断するようになります。しかし、この経験が必ずしも客観的なものではないため、バイアスが生じる場合があると言われています。
- 認知の負荷軽減:すべての情報を詳細に分析することは、脳にとって大きな負担です。そこで、私たちは、簡略化されたルールや近似値を用いて、迅速な判断を下そうとします。この際に、バイアスが生じる可能性があるといわれています。
- 動機づけ:私たちは、自分の信念や期待に合致する情報を選び取りがちです。これは、自分の考えを肯定したいという心理が働くためです。
言われてみると思い当たることは少なくありませんね。
私たちの生活に潜む認知バイアス
認知バイアスは、私たちの日常生活のあらゆる場面で、知らないうちに現れているのです。
例えば、
- ニュースの見方:自分と異なる意見のニュースは無視し、自分の意見を裏付けるニュースばかりを信じる
- 商品の選択:ブランドイメージや口コミに過度に影響され、商品の品質を客観的に評価できない
- 人間関係:特定の人の行動を、過去の経験に基づいて決めつけてしまう
他人に対する偏見や誤解を生み出し、対人関係を悪化させる - 政治:政治家の支持や政策に対する評価が、感情的な側面に大きく左右される
- 経済:投資判断や消費行動が、過去の経験や感情に左右され、非合理的な選択をする
あくまでも1事例であり、時と場所、そして人により変わると思いますが、大なり小なり認知バイアスの影響を受けているのに「自分の判断」だと思い込んでいるのかもしれません。
具体的に見ていきましょう。
代表的で重要な認知バイアス、と対応策
人の思考や価値観の形成に大きく影響すると言われている、主要な認知バイアスについてご紹介します。
- 内集団バイアス:自分が属する集団を過大評価し、他の集団を差別的に評価する傾向
➡閉鎖的な集団の意見、価値観だけでなく、多様な意見に耳を傾け、客観的に評価、判断する
・自分の属する集団の多様性を認識し、他の集団との共通点を見つけるように努める
・集団に対する固定観念を疑い、個々人の違いを尊重する
・異なる文化や価値観を持つ人々と積極的に交流し、理解を深める - 確証バイアス:自分の考えを裏付ける情報ばかりを探し、反証となる情報を無視する傾向
➡賛成意見だけでなく反対意見も参考にすべき
・ 自分の意見に反する情報も積極的に探し検討する
・自分の意見を論理的に説明し、相手の意見にも耳を傾ける
・自分の仮説を検証するために、裏付け検証を重視する - 利用可能性ヒューリスティック:最近経験した出来事や、印象が強い出来事を過度に重視して判断する傾向
➡記憶に新しい情報や、部分的に特徴の強い情報で、より抽象性の高い事象、集団を評価、判断しない
・個別の事例だけでなく、統計データに基づいて判断する - 自己奉仕バイアス:自分の成功は自分の能力によるもの、失敗は外部要因によるものと考える傾向
- ➡物事を公平公正に観察し、自己中心的な考えにならないように気をつける
- ハロー効果:ある人物の一つの特徴が、その人物全体に対する評価に大きく影響を与える傾向
(押し活などはこの典型かも知れませんね) - ホーン効果:ある人物の負の側面が、その人物全体に対する評価に大きく影響を与える傾向
➡共に、人や物事を部分的な特徴や側面で評価せず、総合的に評価する
・初めての人と出会った際、その人の全てを判断せず、複数の機会を通じて理解を深める
人の考えや判断を左右する、こうした認知バイアスは実に200を超えると言われています。
私は120個ほどの認知バイアスを確認しましたが、人の思考や価値観の形成に大きく影響するものは、そう多くはないと感じました。
情報をうのみにしないという視点では、認知バイアスの理解は意義深いアプローチだと感じます。
まずは、主要なものから理解を深めていくのも悪くないと思います。
認知バイアスの主要なものの体系的なまとめを、「おまけ」として最後に添付しておきますのでご参照ください。
認知バイアスを理解する事の意義とその影響
自分では気づかない判断基準の危うさや流動性を理解しておかないと、この認知バイアスに操られて、人は容易に間違った意見に誘導されてしまいかねません。
それはマスコミであったり、政治家であったり、あなたの友人かも知れません。
まずは自分の考えが地に足がついたものになっているか、見直してみませんか。
認知バイアスを克服する方法
こうした認知バイアスは、私たちの思考に深く根付いていますが、克服することはそれほど難しくありません。
- 自己認識:自分の思考を振り返り、どれだけ客観的に情報を選択し、整理し、公平公正に客観的で論理的な思考が出来ているかを、自分自身で理解することが最も重要だと思います
その上で、特に次のことに注意し、認知バイアスの影響を最小限にすることが重要だと指摘されています - 批判的思考:情報を鵜呑みにせず、常に疑問を持ち、複数の視点から物事を考える
- 多様な意見への耳傾け:自分と異なる意見を持つ人との対話を通じて、新たな視点を得る
- 客観的な視点を持つ: 感情的な判断を避け、事実に基づいて判断する
そして、認知バイアスを考える時の注意点もあります。
- 文化的な違い:これらのバイアスの影響は、文化や社会によって異なる可能性があります。例えば、集団主義的な文化では、内集団バイアスがより強く働くかもしれません
- 個人の違い:同じ状況下でも、人によってこれらのバイアスの影響の受け方は異なります。性格や過去の経験などが、バイアスの現れ方に影響を与える可能性があります
- 状況依存性:バイアスは、状況によって強弱が変化します。例えば、時間的な余裕がない状況下では、ヒューリスティック(近道思考)に頼りがちになり、バイアスの影響を受けやすくなります
おまけ:認知バイアスの体系的なまとめ
こうした認知バイアスがどのような枠組みで思考に影響しているか、を理解する事が重要だと思います。
比較的重要と言われている認知バイアスを、体系的に整理してみました。
太線、赤字は、人の思考や価値観形成にとって比較的重要度が高いと言われているものです。
■認知ヒューリスティック (単純化された手法や思考の近道)
・利用可能性ヒューリスティック:直近の経験や記憶に基づいて判断を下すこと
・代表性ヒューリスティック: 物事を全体像ではなく、典型的な事例と比較して判断すること
■感情バイアス
・感情バイアス:感情が意思決定や判断に影響を与えること
・感情依存バイアス: 感情が強く働く出来事や情報を過大評価すること
・感情伝染バイアス: 他人の感情が自分に伝染し、それに基づいて行動すること
■社会的バイアス
・内集団バイアス:自分の所属するグループに対する好意的な感情
・バンドワゴン効果:多くの人が支持している意見や行動に影響を受けること
・社会的証拠バイアス:他人の行動や意見を参考にして判断を行うこと
・ステレオタイプバイアス:グループ全体に対する固定観念が、個々の価値観や偏見の形成に寄与する
・固定観念:過去の経験や情報に基づいて、新しい情報や状況に対して固定的な考え方をしてしまう
・外集団バイアス:内集団以外のグループに対する否定的な感情
・偽の合意効果:自分の意見や行動が他の人にも共有されていると過剰に信じること
■注意バイアス
・選択的注意:自分の関心や興味に基づいて特定の情報にだけ注意を向けること
■自己関連バイアス
・確証バイアス:自分の既存の信念や仮説を支持する都合の良い情報だけを選択的に集めること
・自己奉仕バイアス:成功は自分の努力や能力に帰し、失敗は外部の要因に帰する傾向
・自己中心バイアス:自分自身の視点を過度に重視し、他者の視点や状況を軽視する傾向
・自己価値バイアス:自分の行動や判断を他人のそれよりも肯定的に評価する傾向
・自信過剰バイアス:自分の判断や能力に過度に自信を持つこと
・自己関連記憶バイアス:自分に関連する情報を優先的に記憶すること
■判断バイアス
・アンカリング効果:最初に与えられた情報に強く影響され、それに基づいて判断を行うこと
・ハロー効果:ポジティブな特徴が他の特徴もポジティブに見せること
・ホーン効果:ネガティブな特徴が他の特徴もネガティブに見せること
・帰属バイアス:他人の行動をその人の性格や意図に帰す傾向
・結果バイアス:事後的に結果を見て、その結果を予測できたと考えること
■派生的な概念
・現状維持バイアス:現状を維持しようとする傾向が強く、変化を恐れがち
・後見の明バイアス:事後的に見ると、起こった出来事が最初から予測できたように思ってしまう
・フレーミング効果:情報の提示方法によって意思決定が影響されること
・生存バイアス:成功事例のみを見て、その背後にある失敗事例を無視すること
・恒常性バイアス:現在の状態が将来も続くと予測すること
・確実性バイアス:確実でない状況においても確実な結果を求める傾向
・正常性バイアス:異常な状況に直面した際、正常であると信じ込み対処を怠ること
・ステータス・クオー・バイアス: 現状を維持することを好む傾向
・損失回避バイアス:利益よりも損失を避けることを優先する傾向
・群衆心理バイアス:群衆の中で他人の行動や意見に影響されやすくなること
・アクター・オブザーバー・バイアス:自分の行動は状況のせいにし、他人の行動はその人の性格のせいにする
・情報バイアス:不要な情報でも多くの情報がある方が良いと考えること
・影響効果: 物事の順番やタイミングが判断に影響を与えること
・正常化バイアス:災害などの異常事態を過小評価し、通常通りの対応を続けること
まとめ
認知バイアスは、私たちの思考を歪め、客観的な判断を妨げる可能性があります。
しかし、これらのバイアスの存在を意識し、克服するための努力をすることで、より客観的で合理的な判断を下せるようになります。
ご自身の思考、意見に自信が持てるように、今一度、認知バイアスのことを考えてみませんか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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