皆さんは富士山の麓に広がる、あの「青木ヶ原樹海」に行ったことは有りますか。
今回二度目の富士山麓を訪ねた際に、天候と景色に恵まれなかったこともあり、思い切って青木ヶ原樹海を訪ねてみました。
樹海というと、「一度足を踏み入れたら戻れなくなる」ようなイメージがありますが、ルールを守れば手軽に、そして安全に樹海の散策を楽しむことができます。
今回は、その青木ヶ原樹海をご紹介しようと思います。
何より、溶岩の上に立つ、手つかずの原生林の空気は、他の山では味わえないものがありました。
短時間で雰囲気だけ見て楽しむ(もちろん無料で)こともできますし、しっかり樹海の中のトレイルを楽しむこともできますよ。
青木ヶ原樹海について
青木ヶ原樹海とは
青木ヶ原樹海とは、富士山の北西側に位置する、地図のほぼ網掛け部のエリアです。
富士河口湖町・鳴沢村にまたがって広がる森で、30 km2ほどの広さがあると言われています。
青木ヶ原樹海の中には、上図の青破線のような歩道(一部抜粋)が整備されており、つまんないと思うかもしれませんが、安全に散策出来ます。
日本の原生林は国土全体の4%程度しか残っていないそうですが、富士山の原生林はその1/5ほどを占めるそうですね。
富士山の麓の原生林としては、青木ヶ原樹海をはじめ、弓射塚原始林や奥庭原始林が国指定の天然記念物に指定されています。
散策の拠点に便利な駐車場のご紹介
青木ヶ原樹海の散策には、数か所の無料駐車場を利用することができます。
富岳風穴前:150台程度(無料)
鳴沢風穴入口駐車場:100台(無料)
西湖コウモリ穴(西湖ネイチャーセンター):66台(無料)
当日の散策の様子
今回は、現地到着から宿へのチェックインまでの時間が1時間程度しかなかったことと、曇天模様ということもあり、軽く様子見程度とすることになりました。
西湖コウモリ穴を見学
所要時間1時間程度のガイドツアーをお願いしようとしたところ、予定時間迄30分ほどの待ち時間があり、その間に西湖コウモリ穴を観光することにしました。
コウモリ穴までは徒歩で5分ほどの道ですが、ウッドチップが敷き詰められて歩きやすい道です。
この道も青木ヶ原樹海の中にあり、この道を歩くだけでも青木ヶ原樹海の雰囲気も少し楽しめる感じです。
コウモリ穴の中は、洞窟内の岩で頭を打つリスクが非常に高いということで、ほぼ全員ヘルメットを借りて着用します(無料:保証料として100円を預けますが帰ってきます)。
確かに、コウモリ穴の中の洞窟は高さ方向に狭い箇所が多く、何度も岩に頭をぶつけました。
皆さんも是非ヘルメットを着用することをお勧めします。
ここは冬も暖かいそうで、コウモリが冬の冬眠に利用しているそうです。
ということで、見学中にコウモリを見かけることはありませんでした。
この洞窟は、全長350mくらいあるそうで、富士山の噴火で流れ出た溶岩がガスを発散しながら固まるとき、洞穴の内面に鍾乳石や縄状溶岩を形成したと言われています。
350円の入場料でしたが、決して高いとは思わない体験ができました。
ガイドさんに青木ヶ原樹海について説明を受ける
コウモリ穴から戻ると、ちょうど樹海ツアーの時間でした。
1時間ほどのツアーですが、樹海の生い立ちを詳しく説明してもらえます。
ガイド歴20年ほどのおじさんでしたが、いろいろ教えていただき楽しいひと時でした。
ガイド料は一人わずか500円でしたので、ゆっくり樹海散策したい人には良い選択だと思います。
原生林の醸し出す空気は格別
私はこれまで、百名山と呼ばれる山や、近畿の多くの山を歩いてきましたが、富士山の麓の原始林はそうした山にはない、特別な安らぎを感じました。
とにかく空気が違うことと、曇りで空が暗い日でも、思った以上に明るい環境に驚きました。
溶岩台地の上の原生林は、これまで経験したことのない、自然の調和が体感できるような特別な空間を感じることができたのです。
樹海というのは、決して怖いという対象ではなく、是非一度経験してみる価値がある世界ではないかと思いました。
ガイドツアーでは、コウモリ穴の近くの僅かな距離の散策ですが、雰囲気は十分に味わえます。
時間があり、もっと広い範囲を歩きたい方は、ガイドツアーではなくスマホアプリなどでコースマップを準備して周辺散策することをお勧めします。
YAMAPでは「三湖台」、ヤマレコでは「富士山」でで検索すれば、青木ヶ原樹海のルートが表示できました。
ある程度の範囲を散策するには半日程度の時間を割く覚悟が必要かと思いますが、とても魅力的だと思います。
青木ヶ原樹海のミニ知識
青木ヶ原樹海では「磁石が効かない」とか、「一度足を踏み入れたら戻れなくなる」という逸話がありますが、ほぼ都市伝説のレベルで事実ではありません。
溶岩は鉄鉱石を含むので、冷えて固まる際に地磁気の影響により磁力を持って自らが磁石となることもあるそうですが、方位磁針がわずかに狂う程度の影響しかないそうです。
青木ヶ原樹海でも、方位磁石は地上1mくらいであれば問題なく機能しますし、自衛隊の訓練でも樹海から磁石と地図で目的地に到達する訓練も行なわれています。
又、当然GPSも機能しますので、スマホアプリで地図は正しく表示されます(GPSからの信号受信が困難な地形では注意は必要かも)。
注意すべきなのは、ルートを外れると溶岩の亀裂や穴が開いている箇所があり危険です。
つまり、樹海の中でも整備されたルートを歩行すれば、誰でも安全に樹海を楽しめるのです。
青木ヶ原樹海の歴史:溶岩の大地に原生林が生まれるまでの話
青木ヶ原樹海は、1160年前の西暦864年(貞観6年)に、富士山の北西山麓で大規模な噴火活動(貞観大噴火)で流れた溶岩の上にできた森です。
その時の膨大な量の溶岩は、大室山を迂回して流れ森林地帯を焼き払い、北麓にあった広大な湖・剗の海(せのうみ)に達し、大半を埋没させ分断した結果、現在の西湖と精進湖が誕生したと言われています。
ついでに、富士五湖の歴史も
青木ヶ原樹海の溶岩帯は、主に貞観大噴火に伴う長尾山火口、氷穴火口列、石塚火口など、富士山の山麓に位置する複数の側火口からの玄武岩質溶岩流により広範囲に形成されました。
これらの側火口は、山頂よりも低い標高に位置しており、噴出した溶岩は山麓を広く覆うように流れ広がりました。
この時の溶岩の厚さは少なくとも5m 以上,精進湖や西湖に近い場所では25m 以上の溶岩層が確認されているそうです。
その時流れ込んだ溶岩により、当時の剗の海は西湖と精進湖に分断されたのです。
西湖、精進湖、本栖湖は、地下で多孔質の岩盤で繋がっているため同じ水位であると言われているのは知る人ぞ知る有名な話ですね。
因みに、河口湖、山中湖は、青木ヶ原樹海を形成した貞観大噴火よりも古い時代の火山活動によって形成された湖だそうです。
864年の6月に始まった貞観大噴火は、実に数か月ものあいだ活発な活動を続け、一年以上経過して徐々に落ち着いていった歴史があるのです。
貞観大噴火があった時代は、その前の26年ぐらいも富士山の活動は活発だったことは一般にはあまり知られてないのではないでしょうか。
近年の富士山噴火の懸念の情報に接し、少しドキドキするような話ですね。
溶岩で覆われた地表に樹木が育つ環境が整うまでの「長い道のり」
青木ヶ原樹海の溶岩の表面には、地衣類やコケ類が最初に定着し、長い年月をかけて土壌が形成され、現在の森林へと変化していきました。
土壌の形成速度は、非常に緩やかで、青木ヶ原樹海の土壌は、現在でも10数cm程度の厚さしかないと言われています(場所により多少の差はありますが、土壌生成速度は年間1cm程度)。
つまり、青木ヶ原樹海の樹木の歴史としてはせいぜい数百年程度ということのようです。
青木ヶ原樹海は、痩せた土でもよく育つ針葉樹を中心に構成されており、ツガやヒノキを中心にハリモミ、ヒメコマツ、アカマツなどが繁殖しています。一部にミズナラなどの広葉樹の混合林の原始林も見られるようです。
又、土壌が薄いことから、樹木は地中深くに根を張ることができず、一定の高さまでしか成長できないため、上から見ると同じ高さの樹海を形成しているように見えるとも言われています。
尚、青木ヶ原樹海周辺の国道や車道にはきれいな紅葉が見られますが、これは道路沿いの土壌が人為的に改良されたことに起因して、様々な種類の植物が自然に育ったことによるものだそうです。
倒木更新とは
青木ヶ原樹海では、土壌が浅いことや、溶岩地帯特有の不安定な地盤など、様々な要因が複合的に作用して、倒木が起こりやすい場所もあります(土壌が浅いから倒木が多いということではないようです)。
倒木は、単に朽ちるだけではなく、自らを栄養分となり新しい木の芽を芽吹かせます。これを「倒木更新」というそうです。
青木ヶ原樹海の中では、いたるところで「倒木更新」を見ることができます。
まとめ
訪問前に抱いていたイメージとは全く逆で、樹海の神秘の空気感は爽やかで、もっと長い時間接していたいと思えるものでした。
巨大な溶岩流による自然破壊は大きな出来事ですが、その後1000年を経て再構築された自然の偉大さを感じる世界です。
今回は、ほんの一部しか散策できませんでしたが、次の機会には是非、氷穴や風穴を含めて樹海をゆっくり散策してみたいものだと思いました。
皆さんも是非一度、とても魅力的で落ち着く樹海の特別な空間に抱かれてみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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