”ランニング” それは素晴らし運動習慣ですが、ランニングそのものへ価値や、続けるモチベーションにためらいを感じている人も少なくないと思います。
しかし私たちのようなシニアには、目前に「近い将来、自分の足でどこへでも行ける自由を失わないことは、今の行動にゆだねられている」という切実な課題があります。何とかしなければ、、、
今回の記事では、シニアや初心者のランナーが、「走りながら考える」を楽しみながら、その結果、自分の「フォームが毎回どんどんよくなる簡単な方法」をご紹介します。
ご紹介する内容は、運動生理学やスポーツ医学などに基づいているので、基本はしっかり押さえています。キーワードは「腰高」「前傾」「腿上げ」「着地点の足裏荷重ベクトル」ですが、全然難しくありません。
還暦前に初めてからまもなく8年目になる私も、年々体力低下によりタイムが低下する中で、ご紹介する方法で5年前くらいのタイムにまで回復することができました。しかも楽に、楽しく安全に!
そして、この記事でご紹介したいのは、「自分の体の動きの意味」への向き合いの重要性と、それを走りながら考え、最適化のための改善を毎回繰り返すことも「ランニングの楽しみ」だということです。
「素人の高齢者のつぶやきに価値があるのか」と思うのは当然ですが、67歳でも10km1時間以内を達成できていますし、最新の理論に沿ったこれらの気づきは「捨てたもんじゃない」と思っています。
あなたも、未来の自分への準備として、是非一度ランニングに挑戦してみませんか。
まず結論:ランニングフォーム体得のための簡単2ステップ
運動生理学やスポーツ医学などに基づく根拠は、まとめて記事の後半でご紹介していますので必要に応じてご参照ください。
ここでは、具体的な取り組み方法を「簡単・分かりやすい」を主眼に、たった2つの簡単ステップで「どうすればいいのか」を説明します。
STEP1「腰高」:ランのすべての基本はここにある
腰高姿勢はランニングの全ての基本であり、ランニングで最初に意識し、目指すべき姿勢です。
何故なら、腰高姿勢は上下の無駄な動きを排除した効率的なランニングの原点で、このポジションは合理的で運動効率が高い姿勢であり、故障しない安全な姿勢だからです。
STEP1【腰高】:まず最初に取り組むこと
【スキップで、正しいランニング姿勢を知る】多くの初心者にとって難しいのは、どの姿勢が正しいのか分からないことではないでしょうか。
正しい姿勢とは、「骨盤と体幹がニュートラルに保たれ、重心が落ちない状態」ですが、スキップの姿勢は代表的な目安と言われています。走り始める前に、まずスキップしてみて、その時の腰中心のポジションを意識し、その意識をランニング中にも意識すると、徐々に正しい腰高姿勢が身につくはずです。
正しい姿勢を保ちながら走ることができれば、体幹と骨盤が連動し、効率的な推進力を生み出せます。
チェックポイント
この姿勢を実現するには、骨盤をニュートラルな位置を保つことが重要であり、殿筋・腸腰筋・腹筋が“使われている感覚”が生まれてくると、フォームが良くなっている兆しと言えます。
毎回走りながら、自分の体と向き合い、出来たかどうか確認しましょう!
腰高姿勢がある程度できてから次のステップに進むようにしましょう。
なぜなら基本ができてない状態で、次のプロセスに進むと故障するから!
STEP2「着地点の足裏意識」:前傾や腿上げも使い全体最適化へ
腰高ができると、次に最も重要なのは「着地した瞬間の足裏への力の方向と、体の重心バランスへの意識と、その実践」となります。
簡単にいうと、次のイラストの「バランス状態を自分の体の感覚で再現する」ことになります。
自分の体でこの状態を実現するのに必要な、具体的な意識と実践方法をご紹介します。
STEP2【着地点の足裏意識】:シニアや初心者にも簡単で分かりやすい取り組み方法
【意識すべきは、“着地の瞬間にどこへ力を流すか”】ランニングフォームで最も大切なのは、体幹を安定させ、股関節で脚を素早く入れ替え、接地の瞬間に、“体より前でブレーキをかけず”、“反力が効率よく前へ進む方向に向かう位置”に着地し、そこに自分の体を乗せることです。
着地点への「荷重のかけ方」を補足した上で言い換えると、
- 下肢のバネが働く方向に、一瞬だけ体重を預ける
という表現になります。この“ほんの一瞬の乗り方”が、推進力の差になります。
難しい動作はありません。
次のイラストにあるように、腰高・軽い前傾・自然な腿上げ・足裏の正しい荷重がそろえば、体は自然とそのバランスを作りはじめます。
着地の直後はブレーキを最小にし、接地の後半で前方推進のための反力を最大化すること。
これこそが、「楽に速く走るフォーム」の核心です。

このイラスト状態は、「腰高、適切な前傾、腿の自然な引き上げ、足裏の地面へのバランスよい力のかけ方」が実現できている状況です。
チェックポイント
この姿勢が自分の動作として体得できると、骨盤がニュートラルな位置を保ち、体幹の大きな筋肉(殿筋・腸腰筋・腹筋)を使うことにより、楽に早く走れていることが体感できます。
腰高の感覚も、着地点の足裏意識における力のバランスも、毎回のランニングの中で、考えながら走れば必ず身につきます。
正しく走れるようになると分かる、故障の原因
故障するのは、不必要な無駄な力が、不必要な方向にかかっているから
故障につながるのは、無駄で比効率な力を関節や筋肉にダメージを与えたまま走り続けるからともいえます。
正しいランニング姿勢が身につくと、無駄な力が必要なくなり、楽に、しかも早く走ることができ、更に故障のリスクが大きく軽減されます。
私が遭遇した4つのちょっとした故障も、すべて正しいランニングフォームができてないことが原因でした。「今ならわかるシリーズ」です。ランニングで故障が起きる具体的な原因を、私の4つの故障事例も交えて後半でご紹介します。
補足:「前傾」の正しい意識
運動生理学的な知見からは、適度な前傾姿勢は地面反力の作用線を調整し、膝にかかるねじれ(モーメント)を減らすことで、エネルギー効率の良い走り方に改善させることが指摘されています。これはまさに、先ほどのイラストにおける姿勢のバランスの重要性を意味します。
※ランニングエコノミーとは、専門的には「一定の走行スピードを維持するために必要な酸素摂取量を示す指標」ですが、私たちは「エネルギー効率の高い効率的な体の使い方」の意味で理解しましょう。
そして、前傾姿勢は、衝撃吸収と推進の役割をより大きな筋肉群に効率的に分散させる効果もあります。
注意:前傾角度の不適切な調整は、ランニングエコノミー(RE)を低下させるだけでなく、怪我のリスクも高めるので、極端な姿勢には十分に気をつけます。
前に倒れすぎず、股関節から一本の軸で傾けることと、「足の真下に重心が落ちる位置」を意識します。
最適な前傾角は人ごとに異なり、「特定の最適角度(例:10度など)というものは存在しない」と言われています。
なおかつ、その人のその時のスピード、体幹の安定性、および地面反力との関係によっても異なるのです。
補足:「腿上げ」の正しい意識と、「意識的な腿上げ」で得られる効果
「腿上げ」は、現代の効率的なランニングフォーム理論的には、「大腿部を自然に引き上げる(引き戻す)」または「地面からの反発を利用して軽く持ち上げる」という表現になります。後ほど詳細に説明します。
これは「つま先からつながる下肢の能動的な動き出し」による腿上げの意識ではなく、より自然でエコな動作が望ましいという視点になります。しかし、
ランニングフォーム理論ではやや否定的なこの「能動的な腿上げ」ですが、私の経験上は「初心者には有効な3つのシーン」があると感じています。すなわち、
❶フォームが安定してない段階での、走り始めの始動のイメージとして、まずこの能動的な腿上げ動作から、着地点の足裏意識につなげで、自分のバランス点を探すための導入動作としては有益です。
❷また、登り坂に差し掛かった際に、前傾を強め、新たな着地点の足裏荷重バランスを模索するときも、この能動的な腿上げ動作による始動きっかけは有益です。
❸そして、平地や緩やかな登り傾斜において、それまでのペースに対して、ストライドを伸ばし、ピッチを上げるための新たなポジションを模索する際にも、この意識は有益です。
自分の体の使い方を理解するプロセスとして能動的な腿上げは非常に有効ですが、「通常時のランニングは、あくまで理論通り自然な腿上げが楽で最適である」ことを忘れないようにしましょう。
補足:心肺 vs 筋力 — どちらがキツいのか?
私はこれまで、特に坂道での速度低下の原因が、「筋肉のパワー不足」なのか、「心肺機能の弱さ」のかを、何度も走りながら考えていましたが、ずっと結論が出ないままでした。
しかし、正しいフォームで「体幹と股関節を主導で使う走り方」になると、どの筋肉に負荷がかかっているかにも気づきやすくなります。そして、これまでいかに無駄な筋肉を使っていたかも実感できるようになります。
- 正しいフォームでは大筋群が働き、局所疲労が減るため、しんどさの正体は「心肺」に移行した
- 登り坂でも、股関節伸展が効率的に働くようになり、ペースの低下が減った
どういうことかというと、坂道で簡単にタイムが落ちなくなり、長距離を走ること、坂道を走ることへの抵抗感が低下していくのが分かります。この状態になって初めて、自分の筋力などの弱点が見えてくるので、筋トレなどに取り組むのも有効な気がします。
運動生理学・ランニング科学に基づく正しいフォームの主要因
1. 腰高(重心位置の維持・体幹と骨盤のニュートラル)
要点
- 腰高=“重心が落ちない状態”
- 骨盤と体幹をニュートラルに保てることで、臀筋・ハムストリング・腸腰筋が自然に使われる
- 腰が落ちる姿勢は上下動が増え、エネルギー効率が低下し、故障を誘発する
科学的背景
- 腰高は接地時間短縮と地面反力の効率的獲得に寄与する
- 体幹の安定は股関節伸展の出力効率を高める
2. 前傾(股関節を支点にした、軽い体幹の傾き)
要点
- 前傾とは“骨盤ごと前へ”体幹の傾斜として倒れる角度
- 腰から折れる前傾(Trunk Flexion)は非効率で故障リスクが高い
- 角度の最適解は個人差も大きく、速度によっても変わり、多くは 5〜10度の範囲とされる
効果
- 着地位置が重心直下に寄り、ブレーキ要素を減らす
・地面からの力を効率よく前方への推進力に変えることができる - 地面反力の作用線が膝から遠ざかり、膝や大腿四頭筋の負担が減る
- 股関節伸展(臀筋・ハム)の仕事率が増え、推進力が増す
3. 腿上げ(脚の入れ替え動作=スイング)
要点
腿上げとは、遊脚(ゆうきゃく)期の大腿挙上(きょじょう)と表現され、スイングとも言われる。
- 腿上げは、推進の主役ではなく「接地準備」の動作である
- 高く上げる必要はなく、自然な屈曲が最適
- 意識的で過度な能動的な腿上げは、大腿四頭筋や腸腰筋に余分な「力み」の原因となりエネルギーコストが増し、上下動の要因ともなり、更に前着地によるブレーキの要因となる
- 腿上げが不十分だと接地位置が後ろになりブレーキの要因となる
初心者への補足:有益な側面
- 始動時・坂の入口・ストライド調整では「軽い能動的腿上げ」がバランス習得に役立つ
4. 推進力(地面反力 GRF の最適化)
推進の本質は「接地後半の股関節伸展+足関節底屈」によって生まれる。
効率のよい走りは、「重心直下での接地」「短い接地時間」「効率的なGRF方向制御」で実現する。
要点
- 垂直成分:体重支持が主機能で、短時間で必要量を確保する
- 水平方向:
- 着地直後=後方向(ブレーキ)
- 接地後半=前方向(推進力) - 優れたランナーは ブレーキ最小・推進最大 のGRF(接地反力)パターンを持つ
- 地面を後方に押し出す動作において、臀部(股関節伸展)・ハムストリング・足関節(腓腹筋・ヒラメ筋+足底)の出力が推進力を生む
- 着地から離地までの間に、「足裏が地面から受ける地面反力(GRF)の合成ベクトルを、進行方向(前方)に集中させる」ことで効率的な走行が実現できる
・垂直インパルスを短時間で稼ぐことでエネルギーロスを減らせる
効果
- 推進効率が向上し、速度・心肺コスト・故障リスクが改善
5. 故障リスクの要因と正しいフォームの保護作用
ランニング中の故障の主な原因は以下の通りです。
- “間違った方向の力” が関節や筋に過負荷を生む
- 足部アライメント・前傾過多・骨盤後傾は典型的な原因
- 正しいフォームは負荷を大筋群へ分散し、局所的な損傷を防ぐ
足部アライメントとは:
足首からつま先にかけての骨や関節の並び方(配置)と、地面への接地時の足の形や動きのクセのことです。
簡単に言うと、「足が、着地したときにどんな形で、どの方向に崩れて動いているか」を表しています。
・良い状態:衝撃を効率よく吸収・分散し、力を推進力にスムーズに変えることができる
・悪い状態: 衝撃がうまく吸収されず、特定の骨、関節、腱、筋肉に過度な負担やねじれが生じる
今ならわかる:私の過去の4つの故障の原因
- 膝の内側や外側の痛み:鵞足炎(膝の内側)、腸脛靭帯炎(膝の外側)など
・着地時に、本来まっすぐであるべき膝が内側にねじれたり(ニーイン)、足首が過度に内側に倒れ込んだり(オーバープロネーション)することで、膝周りに無理な引っ張りや圧迫が生じ、その偏った負荷が原因だと考えられます。
・これは、走りながら感覚として直観的に理解できたので、微調整しながら走ることで、ほぼ問題としては顕在化しませんでした。 - 股関節周りやお尻の付け根の痛み:
・体幹(お腹周り)の力が抜けたり、骨盤の傾き(姿勢)が崩れたりすることで、お尻周りの大きな筋肉がうまく使えなくなり、股関節の一部に小さな筋肉への無理な負荷がかかったと考えられます。
・痛みが出たときに、早めに切り上げたり、ペースを落として様子を見ながら走り方を変えたことで症状の悪化を防げたと考えられます。 - 腰痛:ランニングの故障の中で、最も深刻化しやすい症状の一つ
・特に、体幹(お腹周り)の力が抜けて姿勢が安定しないことや、地面に足を着く位置が体より前に出すぎることで、腰が必要以上に反ったり丸まったりして、負荷が集中したと考えられます。
・当時は、早めに切り上げて、自分の走りを振り返ってことで、症状の悪化には至りませんでした。
・こうした症状が出たときはすぐに中断し、自分の走りについて「腰高姿勢」で体幹を使い、腰の安定を意識できているかという点を重点的に見直すことが非常に重要です。 - そして、ふくらはぎの肉離れ:
・これも、体幹を使えず、足首やふくらはぎに頼って地面を強く蹴りすぎたり、かかとから着地してブレーキをかけていたりする非効率なフォームのまま、筋肉疲労が続き限界を超えたことが原因だと考えられます。
・「腰高姿勢」で体幹と股関節を主導で使う走り方ができれば、そもそもふくらはぎに過度な負担がかかることは減りますし、どの筋肉に負荷がかかっているかにも気づきやすくなります。
・原因はウォーミングアップの不足だけでなく、根本的な走り方の問題にあったことが、今なら理解できます。(詳細な経緯は別記事で紹介しています。)
腰高姿勢ができてない状況や非効率な力の使い方のままで、タイムを追いかけたり長距離を走って体に無理を強いると、私のようなトラブルに遭遇できます。気を付けましょう!
まとめ
今シーズン、ようやく夏が終わってランニングシーズンを迎えたとき、思った以上に体力低下を痛感し、少し落ち込みました。そんな中、何とかリカバーしようともがく中で、意外と簡単に楽な走り方をみつけ、調べてみるとランニング理論に沿った走り方になっていると気付き、記事にしてみることにしました。
大切なのは、走ることは「考えること」、「自分の体と向き合うこと」でもあるということへの気付きです。
正しいランニングフォームで走れると、少なくても自然にタイムが上がり、何より走るのがより楽しくなります。坂道の楽しみ方が分かり自然とタイムが速くなり、平地では従来より楽に力強く走れます。
みなさんも、いろいろ試してみたくなりませんか。
推奨する最新レビュー・論文
- Kawamori, N. et al., “Relationships between ground reaction impulse and sprint acceleration performance” — 水平インパルスと加速性能の関連。古典的で影響力あり。(PubMed)
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