私たちはこうしてダマされる③:悪徳商法の罠と認知バイアス

学び・雑記

私たちはこうしてダマされる——以前の記事では、認知バイアスを悪用したメディアにおける情報操作、宗教勧誘の罠について解説しました。今回は、悪徳商法で悪用されるケースについて解説します。

これまでに、「確証バイアス」や、「権威への訴求」、「フレーミング」などの認知バイアスで、人はどのようにをだまされるのかについてご紹介してきました。

一つ一つでは簡単には騙されなくても、複数の思考の歪みを巧みに利用されることで、間違った判断に誘導されることは珍しくないのではないでしょうか。

なぜ人は、明らかに不当な要求にも従ってしまうのでしょうか?

本記事では、私たちの思考に潜む「認知バイアス」が、悪徳商法においてどのように利用されているのかを説明します。

自らの思考の歪みへの理解を深め、情報リテラシーを高めるための一助となれば幸いです。

悪徳商法で利用される認知バイアスとその手口

悪徳商法の手口の例

悪徳商法には、様々な手口があります。自分が被害に会わないことはもとより、気付かないうちに加害者にならないように、又家族がこうした被害にあわない為にも、その手口を知っておきたいものです。

  • マルチ商法: 商品の販売を装い、会員を勧誘し、その紹介者にも報酬を与えることで、ピラミッド型の組織を構築する
  • ねずみ講: 高額な商品を購入し、新たに会員を勧誘することで利益を得るという仕組みで、会員は下位の会員から得られる収入に期待する
  • 訪問販売: 不意に訪問して、高額な商品やサービスを契約させる
  • 架空請求: 架空の料金を請求し、支払いを迫る
  • 出会い系詐欺: 異性との出会いを装い、金銭を騙し取る

消費者庁のHPによると、高齢者(65歳以上)の相談は全体の約30%ほどで、相談内容のトップは商品一般に関するものだそうです。このグラフで2004年のピークは架空請求のピークを反映しています。

多くの人が、悪質な営業の被害を受けています。私たち一人一人に、強い情報リテラシーが求められています。

消費者庁HPより

悪徳商法に共通する特徴

悪徳商法の手口とその特徴を知っておくことも大切です。

  • 契約を急かしたり、断れないような状況を作り出し、高圧的な勧誘をしてきます
  • 商品やサービスの価値に見合わない、不当な高額請求をしてきます
  • 契約内容を詳しく説明せず重要な事項を隠します
  • クーリング・オフ制度を適用できないように、契約書に特約を付けます
    ※実際には、特定商取引法などに基づき、その特約は無効であり、クーリング・オフ制度は適用されます

悪徳商法利用される認知バイアス

  • アンカリング効果:最初に提示された情報(アンカー)に後の判断が大きく影響される傾向を利用し、高額な価格を最初に提示することで、後の価格が安く感じられるように仕向けます
  • 松竹梅の法則:3つの選択肢(松竹梅)を用意することで、真ん中の選択肢(竹)を選ばせやすくする心理を利用し、業者が最も売りたい商品を「竹」として配置します
  • バンドワゴン効果:大勢の人が支持しているという情報に影響され、自分も同じように行動してしまう心理を利用し、「大人気」「売れ筋No.1」といった宣伝文句で購買意欲を煽ります
  • ハロー効果:ある対象の一つの際立った特徴(例えば、高学歴、有名ブランド)に引きずられて、他の特徴も高く評価してしまう心理を利用し、権威性やブランド力を強調することで、商品の価値を実際以上に高く見せます
  • 行動のコミットメント:一度ある行動を取ると、その行動と矛盾する行動を取りにくくなる心理を利用し、無料体験やアンケートなどで顧客を囲い込み、高額な商品やサービスを契約させようとします
  • 損失回避:得をするよりも損をすることを強く避けようとする心理を利用し、「今買わないと損をする」「数量限定」といった言葉で、顧客の焦燥感を煽り、購買意欲を駆り立てます
  • ダブルバインド:相反する命令や要求を同時に提示することで、相手を混乱させ、正常な判断力を失わせる心理操作を利用し、契約を強引に進めようとします

アンカリング効果 (Anchoring Effect)

アンカリングでは、最初に提示された情報(アンカー)が、その後の判断に大きな影響を与える傾向を利用します。プライミング(先に与えられた情報が、後の情報解釈や判断に無意識的な影響を与えること)に似ていますが、アンカリングでは、その後の情報にとって都合のいい基準として利用される点が異なります。

比較対象となる商品を意図的に高く設定し、比較対象との差を大きく見せることで、商品の価値を高く評価させます。

例えば、高級レストランでメニューの一番最初に高額なワインが記載されている場合、その後の料理の価格が比較的安く感じられるのもこうした効果の一つです。

アンカリング効果
悪徳商法におけるアンカリング効果の悪用事例
  • 最初に非常に高額な価格を提示し、その後大幅な割引を提示することで、割安感を感じさせます
    例:通常価格100万円の商品を、今だけ50万円で販売!通販番組などでよく見かけますね。
  • 比較対象として、さらに高額な商品やサービスを提示することで、購入を検討している商品やサービスの価格が妥当であるように見せかけます
ダマされないために

この手口に騙されないためには、価格の割安感にとらわれない意識を強く持ち、そもそもそれは必要なものかどうか、そして、今の自分にとって価格に見合う価値があるものなのか、などを冷静に考えることが重要です。

松竹梅の法則 (Decoy Effect)

松竹梅の法則 とは3つの選択肢が提示された場合、中間の選択肢が最も選ばれやすくなる傾向を利用する手法です。

複数の選択肢の中から選ぶことで、消費者は迷いが生じ、早急に決断を迫られやすくなります。選択肢があることで、必要のない選択をさせられている事実を見落とすことも注意が必要です。

松竹梅の法則
悪徳商法における「松竹梅の法則 」の悪用事例
  • 高価格、中価格、低価格の3つの商品を用意し、販売したい中価格の商品が魅力的に見えるように仕向けます
  • 高価格の商品を「おとり」として用意し、中価格の商品を購入させることを目的とします
ダマされないために

これも、そもそもその中から選ぶことに意味があるのかを冷静に見抜き、それは自分に必要なものなのかを正しく判断する理性が必要です。自分にとっては必要のない選択肢であることへの気付きが重要です。

バンドワゴン効果 (Bandwagon Effect)

バンドワゴン効果とは、多くの人が支持しているものほど、自分も支持したくなる傾向を利用する手法です。

インフルエンサーが特定の商品を宣伝することで、その商品が爆発的に売れるのもこうした効果を意識したものです。流行に遅れを取りたくないという心理を利用した面もあります。

バンドワゴン効果
悪徳商法におけるバンドワゴン効果の悪用事例
  • 「大勢の人が購入している」「今、大人気の商品」などと宣伝し、購買意欲を煽ります
  • 口コミサイトやSNSなどで、サクラを使って高評価のレビューを投稿し、人気があるように見せかけます
  • セミナーやイベントなどで、参加者同士の一体感を演出し、集団心理を利用します
ダマされないために

商品のおすすめ情報には客観的な事実に基づいていないことも多いので、根拠に基づかない煽り情報を真に受けない姿勢が重要です。

誰かが推奨していることを参考にするのはいいとしても、感情的に煽っていたり、根拠のない使用感や、個人の感想に基づく内容でないかを見極め、客観的な情報に基づいて判断する意識が重要です。

購入判断は、誰かが勧めているからではなく、その理由が納得できることが重要です。具体的な効果は本当か、単なる感想レベルの話ではないか、など話を安易に信じない姿勢が大切です。

ハロー効果 (Halo Effect)

ハロー効果とは、ある対象の一つの良い特徴が、他の特徴の評価にも影響を与える傾向を利用する手法で、十分な情報がない状況で、一つの魅力的な特徴から全体を評価してしまう傾向を利用します。

ハロー効果
悪徳商法におけるハロー効果の悪用事例
  • 有名人や権威者などを広告に起用し、商品やサービスのイメージを高めます
  • 立派なオフィスや豪華なパンフレットなどを用意し、企業の信頼性を高めます
  • 専門用語や難しい言葉を多用し、商品やサービスの内容を理解しにくくすることで、権威性を演出します
ダマされないために

印象で物事を判断するのではなく、賞品の特徴や、客観的な事実に基づいた判断を日ごろから心がけましょう。

行動のコミットメント (Commitment)

行動のコミットメント」とは、一度行った行動や表明した意見に一貫性を持たせようとする傾向を利用する手法です。「一貫性の原理」に似ていますが、段階的に自発的な意思決定を促し、その位置決定に基づく行動を促す点が異なります。

一度契約すると、その関係を維持したいという心理が働き、別の商品やサービスの購入にもつながりやすくなります。

最終的に高価な契約へ
悪徳商法における「行動のコミットメント」の悪用事例
  • アンケートへの回答や無料体験への参加など、軽い行動を促し、徐々に高額な契約や購入に繋げていきます(フット・イン・ザ・ドア)
  • 更に、「お客様だけ特別に」といった言葉で、特別感を演出し、断りにくい状況を作ります
  • 契約後も、定期的な連絡やイベントへの招待などを行い、関係性を維持しようとします
ダマされないために

こうした手法で誘導されていることを自覚し、誘導する側のペースで考えるのではなく、冷静に自分の判断基準を持ち続けることが重要です。

損失回避 (Loss Aversion)

損失回避とは、同じ金額の利益を得るよりも、同じ金額の損失を避けることを強く望む傾向を利用する手法です。機会損失を避けようとする人の特性を利用します。

この心理は、潜在的な損失が非常に嫌悪感を引き起こし、それを避けるためにより多くのリスクを取る状況でも見受けられます。

商品の数量や期間を限定することで、手に入れることの難しさを強調し、購買意欲を高めます。

損失回避
悪徳商法における損失回避の悪用事例
  • 「今を逃すと損をする」「この機会を逃すと二度と手に入らない」などと、損失を強調し、焦燥感を煽ります
  • 「限定」「特別」「残りわずか」といった言葉で、希少性を強調し、購買意欲を刺激します
ダマされないために

こうした手口があることを理解し、その手口に乗せられていることを客観的に意識し、自分い取って価値のある事なのかどうかを判断する意識が重要です。

ダブルバインド (Double Bind)

ダブルバインドとは、矛盾する2つのメッセージを同時に伝えられることで、身動きが取れなくなる状態を利用する手口です。

マルチ商法などでよく使われる手口です。

悪徳商法におけるダブルバインドの悪用事例
  • 「お客様のことを思って言っている」と言いながら、高額な商品やサービスを強引に勧めます
  • 断ると「お客様のためにならない」と非難し、罪悪感を植え付けます
  • どちらを選んでも損をするような状況を作り出し、消費者を混乱させます
ダマされないために

巧みに誘導されている状況を理解し、冷静で客観的な判断ができる自分を取り戻し、勧誘されている論法に基づく判断ではなく、必要性と価値の判断に立ち戻ります。

悪徳商法にダマされないための精神的な姿勢

様々な認知バイアスの影響を学ぶとともに、日頃から以下ようなの精神的な姿勢を身につけることが重要です。

  • 疑う心を持つ
    ・どんなに魅力的な話でも安易に信じ込まず、まずは疑いの目で見る習慣をつけましょう
    ・一つの情報源だけに頼らず、複数の情報源から裏取り情報を集め、客観的に判断します
    ・不安な場合は、弁護士や消費者センターなど専門家の意見を聞きましょう
  • 冷静さを保つ
    ・焦りや不安、恐怖心に駆られて判断を急かされないよう、感情に振り回されない意識が重要です
    ・即答せずに、時間を置いて、一旦冷静になって考えましょう
    ・家族や友人など、信頼できる周囲の人に相談し、意見を聞きます
  • 契約書の取り交わしにあたっては、必ず契約内容をしっかり確認します
    ・特に小さな文字で書かれた部分や、専門用語などは注意深く契約書をよく読みます
    ・契約内容が理解できない場合は、必ず、遠慮なく質問します
    ・契約後に取り消したい場合に備え、クーリング・オフ制度の対象かどうか確認します
  • 情報収集を怠らない
    悪徳商法の手口を事前に知っておくことで、予防的な対応ができます
    ・消費者庁や国民生活センターなどのウェブサイトで、消費者保護に関する情報を得ておきます
  • 自信を持つ
    ・周囲に流されず、自分の判断を信じましょう
    ・断りにくい状況でも、断る勇気を持つことが大切です

まとめ

悪徳商法の手口は巧妙で、私たちの心理的な隙を突いてきます。しかし、日頃から冷静さを保ち、疑いの目を持つことで、被害を防ぐことができます。

具体的には、下記のような姿勢が大切です。

  • 感情に左右されず、客観的に判断する
  • 契約内容をしっかり確認する
  • 専門家や信頼できる人に相談する
  • 不当な要求には毅然とNOと言える

私たちは、200種類以上と言われる認知バイアスの影響を受けやすい存在です。しかし、これらの知識を身につけることで、巧妙な話術や心理操作に惑わされにくくなります。

この記事が、皆さんの日々の生活の中で、悪徳商法から身を守る一助となれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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