若かりし頃ならいくらでも動けたはずなのに、最近は少しの運動でもすぐに疲れてしまう。
そんな経験はありませんか?
私も、久しぶりにまとまった運動をすると、経験したことのないほどの疲労感を感じる機会が年を追って増えてきている実感があります。
60代を過ぎると、体は様々な変化を遂げ、運動に対する反応も変わってくるのです。
そして、加齢に伴い疲れやすく感じるのには明確な理由がありますし、それは対応可能なことでもあるのです。
今回は、高齢者が運動後に疲れやすい5つの理由と、その対策についてご紹介します。
なぜ高齢者は少しの運動でも疲れやすくなるの?
最近、疲れやすくなったと感じていませんか?
例えば、若い頃は階段を駆け上がることができたのに、今はゆっくりとしか上がれなくなったという経験はありませんか?
若い頃のように好きなことをするのは不安、と思っていませんか?

人は60歳を過ぎて70代に向かうと、放っておくと体力は急速に落ちて疲れやすくなります。
このような体力の低下は、加齢による身体機能の低下、つまり「老化」が主な原因なのですが、それは自らが無意識のうちに消極的に選択した結果ともいえるのです。
重要なのは、その「老化」の原因を知り対応することです。人には対応するための能力があるのです。
「老化」とは具体的にどのようなメカニズムかを知り、どうすれば良いかを考えていきましょう。
高齢者が、少しの運動でも以前より疲れやすくなる「5つの原因」とは?
筋肉量の減少
年齢を重ねると、誰もが筋肉量の自然な減少に直面します。意識的に対策しなければ、その進行は避けられません。この筋肉量の低下が一定以上進むと、サルコペニアという病気と診断されます。
筋肉は体を支え、エネルギーを消費する重要な器官です。筋肉量が減ると、同じ動作でも大きな負担となり、疲れやすくなります。
加齢に伴う最大の課題は、この適度な筋肉量を維持するための運動不足にあります。つまり、私たちは加齢に対応して意識的に十分な運動を行わない限り、日常生活だけでは必要な筋肉を維持できなくなるという認識と行動が求められるのです。
基礎代謝の低下
基礎代謝とは、私たちが生命活動を維持するために最低限必要なエネルギー消費のことです。
年齢を重ねるとともにこの基礎代謝は低下し、それに伴いエネルギーの産生効率が悪くなるため、運動後の疲労回復が遅れやすくなります。
また、加齢によって甲状腺ホルモンの分泌量も減少することも、基礎代謝が低下する一因です。
しかし、これらの基礎代謝の低下は、日常的な適度な運動によって改善することが可能です。
ホルモンバランスの変化
年齢を重ねると、成長ホルモンやテストステロンといった、筋肉の合成や修復に重要な役割を果たすホルモンの分泌量が自然と低下していきます。
これらのホルモンの減少は、筋肉の回復を遅らせ、疲労感が長く続く原因となります。特にテストステロンは、活力や意欲にも深く関わっているため、その分泌量が減ると疲労を感じやすくなるだけでなく、意欲の低下にもつながりかねません。
このようなホルモンバランスの変化に直接的な介入は難しい場合もありますが、筋力トレーニングや有酸素運動は、その改善に役立つことが知られています。また、ストレスを溜めないことも、ホルモンバランスを良好に保つ上で非常に重要です。
神経系の変化
年齢を重ねると、脳や神経細胞に変化が現れます。特に、神経細胞間で信号を伝える神経伝達物質の分泌量が減少し、神経細胞同士の接続が弱まるため、情報の伝達が遅くなると言われています。
この神経系の機能低下は、身体に様々な影響を及ぼします。例えば、筋肉への指令がうまく伝わらなくなり、運動能力が低下したり、転倒などで怪我をしやすくなったりします。
また、筋肉への信号伝達だけでなく、記憶力、判断力、思考力といった認知機能の低下にも影響します。さらに、自律神経のバランスが崩れる原因となることもあります。
残念ながら、神経細胞は再生能力が低い特徴があるため、一度失われると元に戻すことは困難です。
こうした神経系の機能低下を防ぐには、質の良い睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、そしてストレスの軽減が特に重要です。
血流の悪化
年齢を重ねると、毛細血管の減少や動脈硬化などにより、全身の血流が悪化しやすくなります。これにより、筋肉への酸素や栄養素の供給が不足し、疲労感が増す原因となります。
血流改善のためには、適度な運動、バランスの取れた食事、そしてストレスの軽減が非常に重要です。
特に、全身に酸素や栄養を届ける毛細血管の健康は、軽視されがちですが、身体の機能維持において極めて大切です。積極的に血流改善を意識し、これらの対策に取り組むことが推奨されます。
その他:睡眠の質の低下
年齢を重ねると、睡眠の質が低下しやすくなり、十分な休息が取れず疲労感が蓄積しやすくなります。
この睡眠の質の低下は、疲労感が増すだけでなく、ホルモンバランスや神経系の機能維持にも悪影響を及ぼします。特に高齢者にとっては、睡眠の質の向上が健康を保つ上で極めて重要です。
睡眠の質が低下する主な原因としては、生活リズムの乱れに加え、加齢に伴う体内時計の乱れやセロトニン(睡眠に関わる神経伝達物質)の減少などが挙げられます。
これらを改善するためには、適度な運動、規則正しい生活、そしてストレス緩和を日頃から心がけることが大切です。
加齢に伴う老化は少しの努力で対応可能
80代、90代の過ごし方はどうありたいですか?
『自然の摂理で体が衰えるのだから、無理せず穏やかな老後を過ごしたい』――そうお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、その考え方には、もう一歩深く考えるべき点があります。
確かに、加齢とともに筋肉が減少するのは避けられない自然な現象です。それは間違いありません。
それでも、90歳、100歳になっても、現役で元気に活動されている方々がいるのもまた事実です。人は適切な対策を講じ、年齢相応に体を動かし続けることで、いくつになっても自立した生活を送る能力を内面に秘めているのです。
たとえば、私が参加している地元の麻雀大会では、参加者の半数近くが80代前後ですが、皆さん足腰も頭も手先も驚くほどしっかりしています。普段から農作業などで体を動かし、何事にも前向きで活動的な方ほど、特に生き生きとされています。
現代は、食事や衛生環境、医療の充実により、多くの人が100歳近くまで生きる時代です。80代、90代はもはや特別な年齢ではなく、多くの人にとって『普通の人生の一部』としてやってきます。100歳前後まで生きることは、もはや既定路線なのです。
では、その長い高齢期を、誰かの世話になり、ただベッドに横たわって日々を過ごすだけの人生として受け入れるのでしょうか?
私は、少なくとも自分の足で歩き、心から楽しめる趣味を見つけ、毎日を納得できるように過ごしたいと願っています。
80代、90代を「自分の足で歩き、自分の頭で考える」ために、今からできること
歳を重ねることを、ただ体が衰えることと諦める必要はありません。いくつになっても、若々しい体と心を保つことは十分に可能です。
その秘訣は、多くの元気な高齢者の方々が自然と実践している生活習慣の中にあります。
彼らは例外なく、日々の生活に一定量以上の運動を取り入れています。特に、農林漁業の従事者の方々は、まさにその顕著な例と言えるでしょう。時に過酷な労働で体を壊すケースもありますが、上手にバランスを取ることで、多くの方がご高齢になっても非常にエネルギッシュです。もちろん、日々の食事も同様に重要です。

私のような都市型生活者にとって、運動は意識的に取り入れなければ、日常生活に自然と組み込まれることはありません。だからこそ、より一層強く意識して運動習慣を築く必要があります。

私たちが取り組むべきは、大きく分けて以下の二つです。
- 身体機能の維持・向上:
・筋力の維持(可能であれば向上)、基礎代謝の維持、神経系の機能維持のための刺激継続、血流の改善などを強く意識した運動と食事への取り組み。 - 認知機能の維持・向上:
・常に新たな情報に触れ、それらの真偽を自分の頭で判断できるだけの認知機能を維持し、鍛えること。認知機能は筋肉に比べ、年齢を重ねてからも伸ばす余地が大きいと言われています。
・テレビやYouTubeを見るだけの受動的な生活では、認知機能は決して鍛えられません。高齢者こそ、自ら情報を発信することに取り組む意義は非常に大きいでしょう。
・調べて、考え、整理し、自分の意見をまとめる作業は決して楽ではありませんが、認知機能を鍛える上でこれほど強力な方法はありません。頭を使い、手足を動かす活動も同様に有意義です。こうした取り組みを通じて、受動的な生活では気づかない、情報の裏側を見抜く力も自然と身につくはずです。
認知機能を健全に保つことも、意識的な活動なしには達成できません。いくつになっても頭を使い、新たな挑戦を忘れず学びを続け、そしてそれを楽しむことがとても重要です。
何よりも大切なのは、「90歳で誰かの世話にならない」という強い意志と、その活動の中に楽しみを見出すことです。人は、その必要性と意味を自ら納得し、強い動機を見出さない限り、本当の意志は生まれません。義務感で始めたことは、決して長続きしないからです。
適度な運動を続けることは、あなたの努力で解決できる課題であり、自身の意志だけで実現できる上に、計り知れない効果が期待できます。
もちろん、「遅すぎることはない」とは言え、既にリカバーが困難な状況の方もいらっしゃるのは事実です。つまり、誰もが努力すれば全て解決するというわけではありません。ご自身の体と相談し、専門家の意見も参考にしながら、実践をご検討ください。
特に60代は、来るべき高齢期を健やかに過ごすための非常に重要な準備期間です。この時を有意義に、そして大切に過ごしましょう!
具体的に推奨される高齢者の運動事例
いきなり激しい運動をするのではなく、自分の体力に合った運動から始めましょう。
継続する上で特に重要なのは楽しめることです。いろいろ試して、好きなことを探してみませんか。
60代以上の方に推奨される運動
- ウォーキング: 体力に合わせて距離や時間を調整できるため、最も手軽な有酸素運動です
- 水泳: 全身運動になり、関節への負担が少ないため、高齢者の方でも安心して行えます
- ヨガ: 体の柔軟性を高め、リラックス効果も期待できます
- 太極拳: 全身運動でありながら、ゆっくりとした動きで関節への負担が少ないです
- 椅子に座ってできる体操: 足踏み、腕回しなど、椅子に座ったままできる簡単な運動です
- 体力に自信のある方向け:ランジやスクワット、ランニングなど(適切な指導が望ましいです)

注意点
- 無理のない範囲で:年齢や体力に合わせて、無理のない範囲で行うことが大切です
- 医師に相談:特に持病がある場合は、必ず医師に相談し、自分に合った運動を指導してもらいましょう
- ウォーミングアップとクールダウン:始める前には必ずウォーミングアップを行い、筋肉を温めてから運動を始めましょう。終わったらクールダウンを行い、ゆっくりと体を休ませましょう
- 周りの人に相談:一人での運動が不安な場合は、家族や友人と一緒に運動したり、地域の健康体操教室に参加するのも良いでしょう
- 変化に気をつける:運動中に痛みを感じたり、体調がすぐれない場合は、すぐに運動を中止し、医師に相談しましょう
加齢による筋肉量減少の実情を知る
年齢とともに筋肉量は自然と減少していきます。
筋肉は体の動きを支え、エネルギーを消費する重要な器官です。
筋肉量が減ると、同じ運動でも大きな負担となり、疲労を感じやすくなるのです。
しかし、これは前提ということではなく、単に実情の理解という意味です。
この筋肉量の減少を少しでも小さくすることが、非常に大きな効果につながることを理解することがとても重要なのです。
高齢者の筋肉量低下に関するデータ
年齢を重ねるごとに、筋肉量は徐々に減少していきます。
特に60歳以降は、その減少スピードが加速し、10年で約5~10%の筋肉を失うと言われています。
上肢よりも下肢の筋肉量の減少が大きい傾向があります。(足腰を鍛えることが重要)
- 20歳の筋肉量を100% とすると
- 70歳では約70~80%
- 80歳では約60%程度 という報告データもあります

筋肉量減少の影響
筋肉量の低下は、単に疲れやすくなるというだけでなく、下記のように様々なリスクの原因にもなるのです。
- 身体機能の低下:歩行速度の低下、立ち上がりが困難になるなど、日常生活に支障をきたす可能性があります
- 骨折リスクの増加:骨粗鬆症との併発により、骨折のリスクが高まります
- 代謝の低下:基礎代謝が低下し、脂肪蓄積による肥満や生活習慣病のリスクが高まります
- 免疫力の低下:筋肉は免疫機能とも深く関わっているため、感染症にかかりやすくなる可能性があります
まとめ
人は誰しも、加齢に伴い体力が低下し疲労回復能力が低下しがちです。しかしそれは、惰性で年相応の暮らしぶりと思っている行動を続けていることで起きているのではないでしょうか。
人生100年時代を迎えた今、90代、100歳代をいかに充実して生きるか、その選択と準備は、私たち自身の内に秘められた権利であり、責任ではないでしょうか。
現在の体力低下や疲れやすさの理由、そしてそれに対して何をすべきかを知った今、残されているのは「行動するか否か」だけです。
私たちの身体と認知機能をどう維持し、向上させていくかは、単なる個人の選択を超え、人として与えられた時間をどう全うするかという問いかもしれませんね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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