皆さんは魚の熟成って知っていますか。
新鮮な魚のお刺し身は、張りがありプリプリの食感でとても美味しいですね。
しかしそれ以上に「熟成魚」は異次元の美味しさです。食感はややモッチリしてきますが旨味が別次元です。
正直、「魚の刺身ってこんなに旨味があったの?」という感動体験です。食感の好みは有ると思いますが、この旨味は食感を大きく凌駕していると思います。
20年以上の釣り歴の私ですが、まともに美味しい熟成魚が食べれるようになったのはここ最近のことです。
これまでに学んだ熟成に関する極意をここで全公開したいと思います。
この記事では、「熟成のメカニズム」と熟成に必要な「適切な条件やその理由」についても詳しくご説明していきます。私は、何故そうなのかを知ることが大切だと考えているので、知り得る情報をご提供しようと思います。
釣り人の皆さんには、釣った魚を自分で処理できるようになる楽しさと、その結果の別次元の熟成魚の美味しさを是非味わっていただきたいと思います。
魚の熟成のメカニズムを知り、正しい「熟成」にチャレンジしよう
熟成は、一歩間違うと「腐敗」につながるリスクがあります。
どうすれば熟成の道を進むことが出来るのかを理解しましょう。
熟成のメカニズム
- 魚の熟成はうまみ成分であるイノシン酸を増やす作業です
- 魚の熟成プロセスは下記の通り、ATPの分解により旨味を生み出すプロセスになります
ATP→ADP→AMP→イノシン酸(IMP) - 過度な熟成は、イノシン酸から更に旨味でない成分に変わるので注意が必要です
(長期熟成するには、熟成前の魚のポテンシャルが高いことが必要です)
熟成温度条件
熟成温度は低温硬直を避け、熟成の酵素の働きと雑菌繁殖抑制の点で、2~3(5)℃が適切です。以前は凍結しない0℃近くとしてきましたが、厳密には低温硬直の影響を避ける必要があります。
具体的には、氷で冷やした水につけながらも、魚に僅かな断熱層を設けることで実質的な効果を近づける方法が推奨されます。(後述)
熟成において、低温管理が求められる理由
- 微生物の増殖抑制:低温は微生物の成長を抑制し、鮮度を最長限保持するために重要です
これにより、食中毒のリスクを最小限に抑えることができます - 魚の風味と品質の保持:高温になると、魚の風味や品質が損なわれ、熟成後の味わいに影響を与える可能性があります
- 凍結しない0~2℃では、低温硬直のリスクがあるため、その温度帯は避ける必要があります
- 熟成の適切な進行:熟成は、低温(2~3℃)で寝かせることにより死後硬直を解き身を柔らかくし、適度に水分を抜いて素材本来の旨味を引き出す調理法です
- 低温の方が酸化反応を遅らせる効果があり酸化が抑制され風味が損なわれるのを防ぎます
- 低温であるほど筋肉組織の収縮が抑制され、ドリップの発生も抑えられます
一時的にでも凍結してしまうとダメですか
下記の理由で、熟成中に凍結してしまうのは大きな問題があります。冷蔵庫のチルド室での熟成も選択肢として考えられますが、安定した温度管理ができるかどうかが大きな課題となるのです。
- 風味の変化:魚が凍ると、その細胞構造が破壊され、風味が変わる可能性があります。これは特に、繊細な風味を持つ魚にとっては大きな問題となります
- 食感の損ない:凍結により魚の細胞が破壊されると、解凍後の食感が損なわれる可能性があります。特に、魚の身がパサついたり、水っぽくなったりすることがあります
- 熟成の中断:魚が凍ると、熟成プロセスが中断されます。熟成は一定の温度範囲でしか進行しないため、凍結状態では熟成が進まなくなります
熟成の際は、魚は真空引が必要なの?
熟成には微量の酸素も必要ですので、真空引きはしません。真空引きは熟成を阻害するだけでなく、身を潰しかねない弊害もありますのでご注意ください。
熟成魚を目指すのであれば、弱真空に管理するのが一般的でかつ合理的な方法です。
詳しくは後程説明します。
熟成する魚に求められる条件と理由
釣り場の管理が非常に重要な理由
熟成に向かう適切なプロセスとは、以下の工程が適切に管理されていることが求められますが、良質な熟成のために必要なことの多く(下記1.~5.)は、既に釣り場での管理で大半が決まっているのです。
熟成魚に求められる条件(コンディション)とは
- 釣りあげたらできるだけ早く、脳締めにより無駄なATP消費が抑制されている
- 血抜きにより熟成中の特有の臭みや身の変色、雑菌繁殖が抑制されている
※血抜きは、熟成においては重要な管理項目と考えられ、その意味で津本式は興味深いですね - 神経抜きされ、死後硬直も解硬も均一で緩やかに進んでいる
- 釣り上げて適切な締め処理後、素早く適切に冷却されている
- 冷却後の保管、持ち帰りの保管が適切で、低温硬直していない
- エラや内臓、血合いの除去の下処理が丁寧に実施され、水洗い、拭き上げが適切にできている
- 熟成時にも低温硬直にならない準備、温度管理ができている
- 適温での均一な熟成環境である
解硬:解硬とは、特に熟成前に必要なプロセスで、死後硬直後に再度筋肉が緩む状態を指します
釣り場での魚の鮮度維持の方法については別記事で詳しくご説明していますので、良かったらこちらもご参照ください。

釣りあげてすぐに締めてしっかり冷やし込むことは最低条件です。血抜きや神経締めも特に長期熟成にはより重要となります。
いろいろするのが難しい状況では、まずは最低限の処置として脳締めと冷やし込みを優先しましょう。
身に厚みが無かったり、釣り上げた時に既に弱っている魚は熟成には向きませんので、加熱調理したり、すぐに食べた方が良いです。
魚のコンディションや鮮度が、熟成魚に求められる理由
風味と品質
魚の鮮度が高いほど、その風味と品質は良くなります。
鮮度が落ちると、魚の風味が損なわれ、熟成後の味わいに影響を与えます。
食材の安全性
魚は新鮮でないと、細菌が増殖しやすくなります。これらは食材の安全性を脅かし、食中毒のリスクを高めます。
鮮度管理が悪く、熟成までの処理が悪く、熟成環境が不適切な場合、熟成ではなく腐敗を進行させることになりかねません。
熟成の出来映え
魚のコンディションが良いと、熟成の過程でうまみ成分が増え、より深い味わいが引き出されます。
逆に、鮮度が落ちている魚を熟成させると、望ましくない風味や臭みが出る可能性があります。
体高があり、旨味の元のATP量が多いことが重要です。
熟成はうまみ成分を引き出すプロセスですが、前提条件として熟成前の状態が重要なのです。
ご注意:腐敗のメカニズム
魚の鮮度が悪い事に加え、処理中の管理が悪くても熟成ではなく腐敗に近い状況になりがちです。
熟成でなく腐敗させてしまうのは、下記の要因がありますので、自己責任で十分にご注意ください!
熟成は鮮度の高い魚で行うのと共に、前処理の汚れ、ヌメリの水洗いなどをしっかり行う事が大切です。
- 魚の腐敗は、❶細菌の増殖、❷微生物による魚肉の基質的変化により進行します
❶魚は、エラ、粘膜、内臓に細菌を多く持つので、早めに丁寧に、確実に除去することが必要です
緑膿菌や大腸菌が増えると腐敗が進み食中毒の危険が増します
❷細菌が増えるとヒスタミンが大量に生成され、ヒスタミン中毒の危険が増大します
(ヒスタミンの元がヒスチジンで、青物に多く含まれる) - 通常の腐敗は脱アミノ反応でアミノ酸が分解されアンモニアによる腐敗臭が発生します
- ヒスタミン発生時はモルガン菌による脱炭素反応で匂いでは気付かず中毒症状に至るリスクがあります
熟成前の魚の準備
魚は、釣り場での処置と元の魚の状態を見極め、熟成に適した魚を選びます。
熟成を行う魚は、3枚卸をしないで下処理だけすることをお勧めします
熟成する予定の魚は、三枚おろしにせず、ウロコ・エラ・内臓を取り、血合いを含めてきれいに洗い、拭き上げてそのまま熟成に回しましょう。
何故なら、熟成中は出来るだけ空気に触れる面積を小さくする必要があるからです。
熟成には微量の酸素も必要ですので真空にはせず弱真空という状態にしなければなりません。そのため空気に触れている魚の表面は酸化により必ず劣化しますので、三枚卸しは合理的ではないのです。
熟成予定の魚は、このタイミングでトゲのあるヒレはハサミで切り落とします。
これはヒレの雑菌を除去する効果も期待できますし、熟成中の袋破れ防止のために非常に有効です。
熟成する魚を卸す時の注意点
魚の鮮度を保ちつつ卸す手順は、別記事にてご紹介していますので、そちらをご参照下さい。

特に重要なのは、きれいに洗い、しっかり拭き上げることです。雑菌の元となる汚れを洗う上では、軍手などで安全に確実にヌメリや汚れ、血合いを短時間で洗い落とします。
家庭でできる再現性の高い熟成方法のご紹介
ここまでにご説明した通り、熟成温度は低温硬直を避けた、2~3℃が最適です。
家庭用冷蔵庫のチルド室でも、適切な温度管理が可能で凍結しなければ大丈夫ですが、温度の安定性の点で少し心配があります。冷蔵庫の性能と設定の仕方によっては大丈夫なケースもあるかもしれません。
ここでは、冷蔵庫の機種や設定によらず、家庭でもできて一部のプロも行っている再現性の高い方法をご紹介します。
冷蔵庫内で、魚をビニール袋に入れて弱真空にして、氷水に漬けて保管する
準備するもの(下の写真を参照ください)
- 5-10リットル前後の水をためることができる容器
・魚の大きさにより、容器の大きさは変えてください:但し冷蔵庫のどこかに入る大きさで!
・下の写真の容器では、頭を落として45cmの鯛やグレが限界でした
大きな青物の熟成にはもう少し大きな容器が必要です - 魚を入れて空気を抜いて水に入れるためのビニール袋(穴が開かないことが必須)
・厚みが0.03mm程度あった方がいいと思います
・私は0.01mmのキッチンパックを使っていましたが、10回に一回は水が浸入してました - 魚をビニールに入れた後で空気を吸い出すためのストロー
- 上から魚が浮かないように蓋をするための保冷剤
(容器の大きに合わせて、水面を覆える方が良いです)
熟成前の魚をビニールで弱真空にする前準備
- 熟成中には魚からドリップが発生するため、魚の内臓を出した部分にペーパータオルを少しだけ入れます
- 弱真空は、ビニール袋に魚を入れストローで口で空気をしっかり吸い出すぐらいが最適です
(口で吸う事に抵抗がある方もいらっしゃると思いますが、残念ながら意外と一般的な方法なんです)
・破れ対策として、魚は事前にヒレなどはハサミで切っておくと安心です
・低温硬直を避けるために、魚にラップを巻いて、更に薄い紙を巻いてからビニール袋に入れることをお勧めします
・これはビニールの穴あき防止にも有効で一石二鳥の効果が期待できます - ビニール袋が隙間なく潰れるくらい空気を吸い出したら、袋をねじってから先の方をしっかり縛ります
・ビニール袋は、事前に膨らませて空気漏れが無い事を確認しておきましょう

上の写真は、少し大きめの鯛の頭を落とし、上下のヒレを切り取り、容器の大きさの都合もあり尻尾も切り取っています。魚の腹部分には、ペーパータオルを入れています。
上の写真は、低温硬直の影響を考慮前のものなので、実際は、魚をラップで巻いて、更に薄紙を巻いてからビニールに入れます。
熟成の為の具体的な作業内容
- 水容器に水を半分くらい入れ、そこに氷を多めに入れて0℃くらいに冷やし込みます
- 前準備でビニール袋の中の空気を抜いた魚を、水容器の中に入れます
全部入れ終わったら、上に保冷剤をかぶせて魚がすべて水没するようにします
※注意:一部が水面から出ると、不均一な熟成や、部分的に熟成でなく腐敗するリスクがあります - この状態で何日か熟成させますが、水の温度はほぼ0℃に維持したいのでほぼ毎日氷の補充を忘れないことが重要です
- 熟成中に魚からはドリップが出ますので、必要最小限のペーパーで吸い取るようにします
初日と、2日目はこのペーパーを交換しましょう(ビニールを開き、弱真空のやり直しです)
それ以降はドリップは少なくなるので、そのままでもよいかもしれませんし、過剰な吸水防止のためペーパーも必要ないかもしれません
水温は0℃近くに冷やしとしても、魚をラップで巻いて、更に紙で巻くことで、多少の断熱効果で、実質的には2~3℃での熟成環境と同等の冷却環境と考えて問題ないと考えられます。
ラップや、紙巻なしでも低温硬直の影響があったかは良く分からないくらい美味しかったですが、低温硬直を避けることができると更に美味しくなることが期待できます。

この方法が推奨される理由
- 温度管理:氷水につけることで、魚の温度を一定に保つことができます。これにより、熟成過程での温度変動を防ぎ、熟成の品質を一定に保つことが可能になります
- 鮮度維持:ビニール袋内で弱真空にすることで、魚が外部の空気と接触することを最小限に抑え、鮮度を長時間維持することができます。また、雑菌の繁殖も抑制されます
- 雑菌繁殖の抑制:氷水は低温であり、ビニール袋は魚を外部環境から隔離するため、両方とも雑菌の繁殖を抑制する効果があります
この方法の注意点(気を付ければ難しくは有りません)
- 魚の一部が水面から出ないように、上に保冷剤等をかぶせて魚がすべて水没するようにします
(魚の温度ムラは、熟成ムラの原因となるため) - 氷水の温度を一定に保つためには、定期的に氷を追加・補充するなどの管理が重要です
上述の通り、熟成温度を2℃前後相当に管理する事は多くのメリットがあります - ビニール袋は密封性が高いものを使用し、弱真空にした魚に水が入らないようにしっかり縛ります
熟成魚の食べごろはいつ?熟成ってどれくらいやるの?
熟成魚の食べ時は、元の魚のコンディションにもよりますが、結論としては二日目でも大丈夫ですし、魚が新鮮でその後の管理に自信があれば1週間後でもまず問題有りません。
しかし、魚を取り出して少し曲げた時に、未だ硬さが残っている場合は、死後硬直後の解硬や熟成が十分にが進んでない可能性がありあす。このあたりは、やりながら、食べながら自分で探ってください。
※熟成は解硬後のプロセスですので、解硬の管理も実は重要なのです。
また、熟成過程でどうしても表面の酸化は避けられないので、特に表面の脂分が酸化して少し黄色・茶色味を帯びている部分は切り落とします。
魚の状態によっては1か月過ぎても美味しく食べられるそうですが、私は10日程度しかやったことが有りません。
何故なら、この容器の量だと、美味しくてそれまでに食べ尽くしてしまうからです。
熟成は、ある程度の期間やった方がうまみはより強くなります(経験上)。しかし、2日目や3日目でも十分美味しく食べられます。
食べ比べてみて、何日目が良いかは経験値を重ねていくのがいいと思います。(あくまでも自己責任ですが)。
熟成中の更なるテクニック
熟成途中の処理として、熟成2~3日後に3枚卸しを行い、薄塩をあてて、数時間冷蔵庫内で乾燥させてから、再度弱真空にして保存する方法もあるようです。塩加減や乾燥時間は経験が必要なので、私はやったことがありません。
この方法は一般的な熟成魚の作り方でもあり、実践される方も多いようです。この方法によって、魚がしっとりとした状態になり、長期保存も可能となるようです。
この方法では熟成することで魚のATPが分解され、旨味成分が増加することでより美味しくなり、塩を振ることで水分を抜き、魚肉の乾燥を促し、腐敗を防ぐことができ、更に冷気中で乾燥させることによって、魚肉表面に微生物が繁殖するのを防ぐことができるそうです。
熟成に当たっての注意点のまとめ
- 熟成には熟成前の魚の鮮度とコンディションが非常に重要です。既に腐敗が進みかけている魚だと、熟成しているつもりが単に腐敗を進行させているだけになりかねません。釣り場での処理と持ち帰り方、更に魚の鮮度を落とさないように短時間で、水の使用を適切に処理を行うことが最低限の条件です。(魚の釣り場での管理やそのあとの処理に自信がない場合は、熟成は諦めて早目に消費しましょう)
魚の管理と同様に、体高のある魚を選ぶことも重要です。痩せた魚ではATPの分解による旨味の生成が期待できず、熟成への期待は低くなります。 - 熟成過程ではどうしても表面の酸化が進みます。ですので熟成するのであれば、ウロコと内臓を取ってきれいに水洗いした状態で、卸す前の状態で行うのが一般的です。3枚卸しの状態でも塾生は可能ですが、露出した身の部分の劣化は避けられないので、あまりお勧めできません。(半身を骨付きのままで熟成するのは有りです)
- ビニール袋に入れた魚を水につけて保管するので、ビニールが破れてしまうと水浸しになり熟成どころではなくなります。そのため、魚のヒレはキッチンバサミなどで切り落とし、更にラップで巻いてビニールの保護をすることをお勧めします。
- 魚を熟成するのに真空引きの機械を使う人がいるようですが、魚は熟成過程で僅かに酸素を必要としますので、弱真空と言ってビニール袋の中の空気を口で吸い出して縛ることで程よい弱真空での保存が出来ます。(私は百均の太目のストローを愛用しています)
まとめ
「魚の熟成」は相当奥が深く、ここでご紹介した内容以外にも、人によっては異なるアプローチがあるかもしれません。しかし、熟成の原理を知り、なぜそうなのかを知ることは重要なことだと思います。
本記事では、必要最低限の熟成に関する情報はご提供出来ていると考えます。
釣り人の皆さんには、是非、自分で釣った魚の「熟成」にもチャレンジしていただき、釣りライフの幅を広げ、格別のお刺身を味わって頂きたいと思います。
今後も少しづつでも自分の引き出しを広げながら、釣りライフと美食ライフを楽しみたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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