「答えは情報の中にはない」!「知的体幹」を鍛えるための思考の仕組みを知る

学び・雑記

多くの人が、学んだ知識や、巷に溢れる情報の中に「答え」を探し続けているかもしれません。しかし、運よく見つかる答えはごく稀で、多くの場合、そこに潜むのは誰かの「養分」となる意図的な誘導であることに気づいていますか?

自分にとって本当に価値ある答えは、AIが瞬時に教えてくれるような、誰もが容易に手に入れられる情報の中にはありません。それは、自ら問いを立て、深く調べ、検証し、そして考え抜くことでしか見つけ出せないものだからです。

私たちは今、人間の思考を深く紐解き、その仕組みを理解し、活用していく意識が不可欠です。

人間の思考は、❶高速で直感的な「システム1」と、論理的で熟考を要する「システム2」という「二重過程理論」で説明されます。そして、この「システム1」の驚くべき高速処理を可能にしているのが、私たち全てに備わる❷「思考の枠組み」です。具体的には、フレーム、スキーマ、メタファー、アナロジーといった独自の認知メカニズムが、私たちの思考の土台となっています。一方で、この高速な判断と引き換えに、誤った結論へ導かれやすい❸「認知バイアス」という「思考の罠」も潜んでいることを忘れてはなりません。

この記事では、人間の思考の中核をなす、この❷「思考の枠組み」—フレーム、スキーマ、メタファー、アナロジーといった独自の認知の仕組み—について、徹底的に解説していきます。❸認知バイアスについては、「思考の枠組み」との関連性が深いので概要を少しだけご説明します。

「自分の思考」を知り、適切な情報を選び抜き、あなたの頭で考えるための第一歩を踏み出しませんか。

(尚、❶二重過程理論については別記事で詳しく解説しています。)

人の思考の仕組み:効率的な思考のための「思考の地図」を利用する

あなたは毎日、たくさんのことを考え、判断を下していますね。「今日の夕飯は何にしよう?」「あの問題はどう解決しよう?」――こうした日々の思考を効率的に行うため、私たちは無意識のうちに「思考の地図」とも呼べる、様々な上位概念を利用しています。

それが、「フレーム」「スキーマ」「メタファー」「アナロジー」といった、一見すると難しく感じるかもしれない概念です。これらは、あなたが普段から意識せずとも使っている、まさに「考える」という行為の土台となっているものなのです。

なぜ「思考の地図」を知る必要があるのか?

これらの馴染みのない概念を知らないことは、実は他者に巧妙に操作されたり、誤った判断をしてしまったりするリスクに繋がりかねません。なぜなら、賢い第三者は、私たちの思考パターンや「クセ」を巧みに利用することがあるからです。

「この人は特定の論理構成に弱いから、この視点から情報を提示すれば簡単に納得させられる」――そんな風に、私たちのワンパターンの思考のクセは、時に脆さにもなり得るのです。

だからこそ、自分の思考の仕組みを理解し、その「地図」を意識的に使うことが、現代を賢く生き抜く上で非常に重要になります。

思考を構成する主な「概念」:具体的な事例で理解する

これらの思考の枠組みの概念一つ一つを完璧に覚える必要はありません。まずは「こんなものがあるんだな」とざっくりとしたイメージを持つことから始めましょう。

直感的に「あ、そういうことか!」と感じられれば、それはあなたの無意識が既に使っている証拠かもしれません。

カテゴリーと概念:情報を整理する基本の「箱」と「特徴」

  • カテゴリー: 物事をグループ分けする「箱」のようなものです
    例: 「果物」というカテゴリーには、リンゴやバナナ、ミカンなどが入ります
  • 概念: カテゴリーの中にある、それぞれのものの特徴や性質を表す言葉です
    例: 「リンゴ」という概念は、「赤くて丸い」「甘酸っぱい」「シャキシャキしている」といった特徴を持つと認識されますね

モデル:複雑な仕組みを「シンプルに理解する」ツール

  • モデル: 物事の仕組みや構造を、シンプルに分かりやすく表したものです
    例: 地球儀は、複雑な地球を、手にとって理解しやすい「地球のモデル」です
    ・複雑な事象の全体像を把握し、問題解決や意思決定に役立てるために使われます
    ・構成要素、属性、機能、プロセス、文脈など、多岐にわたる視点から分析する際に役立ちます

フレーム:状況を見る「視点や枠組み」

  • フレーム: ある状況や出来事に対する一般的な考え方や、情報を見る際の「枠組み」「視点」のことです
    例: 「試験前はよく勉強するべきだ」という考え方は、試験に関する一般的な「努力」のフレームに基づいています
    ・複雑な事象や概念を、より詳細にかつ体系的に理解し、新たな洞察を得るための構造を提供します
    ・一つの事象でも、異なるフレームで見ることで、全く違う側面が見えてきます

スキーマ:経験から生まれる「心のひな形」

  • スキーマ: 過去の経験や知識に基づいて私たちの頭の中に形成される「ものの見方」や「心のひな形」のようなものです。物事に対する理解や期待をあらかじめ持っている状態を指します
    例: 「犬」というスキーマを持っていると、犬を見たときに「可愛い」「四足歩行」「吠える」といったイメージが瞬時に浮かびます
    ・初めて犬を見る人は、このスキーマがないため、それが何であるか分かりません
    ・経験から学んだことを元に、新しいことも素早く理解しやすくなります
    ・「犬は怖い」という偏った経験しかないと、全ての犬が怖いという先入観を持ってしまうことがあります
    ・自分のスキーマを理解することは非常に大切です
    ・自分の考え方がどこから来ているのかを知ることで、もっと客観的に物事を判断できるようになるのです

メタファーとアナロジー:異なるもので「新しい理解」を築く

  • メタファー(比喩): 異なるものを直接的に比較することで、新しい理解や感情を呼び起こす方法です
    例: 「人生は旅だ」というのは、人生を旅にたとえたメタファーです
    ・抽象的な概念を具体化し、印象深い表現で代替することで、感情に訴えかけたり、特定の側面を強調したりします
  • アナロジー(類推): 二つの異なる事象の間の類似性に基づいて、一方の知識を他方に適用する思考法です。
    例: 「脳はコンピュータのようなものだ」と考えることで、脳の働きを理解しようとする思考
    ・複雑な概念をより単純な概念に置き換え、理解を深めることが目的です
    ・二つの事象間の構造的な類似性に焦点を当て、より体系的な比較を行います

これらの概念を使って、私たちは情報をすばやく処理し、考えを構築し、自分なりの価値観(地図)を形成することで、置かれている状況や社会環境を理解しようとしています。

大切なのは、人は無意識にこうした思考の枠組みを常に利用している事実を知ることです。

自分自身の思考のクセが、どのように形成されているのかを知ることが重要なのです。

思考の地図は「認知バイアス」という「歪み」を伴う

これらの概念を使って、私たちは情報を素早く処理し、考えを構築し、自分なりの価値観(思考の地図)を形成することで、置かれている状況や社会環境を理解しようとしています。

しかし、残念ながら私たちの思考は完璧ではありません。この「思考の地図」は、時には「認知バイアス」と呼ばれる「歪み」を伴い、誤った判断へと誘導されることがあるのです。

認知バイアスとは?

認知バイアスは、私たちの思考が効率化される過程で生じる「近道行動(ヒューリスティクス)」の結果として生まれる、間違った方向に誘導されがちな「思考のクセ」です。

簡単に言うと、過去の偏った経験や、自分にとって都合が良いように考える癖が、客観的ではない判断を引き起こすことがある、ということです。

さまざまな認知バイアスの例

例えば、「自分はいつも正しい」と思いこむ自己奉仕バイアスや、「最初に提示された情報に強く影響されてしまう」アンカリング効果など、人間には200を超える種類の認知バイアスがあると言われています。

(これらの認知バイアスに関しては、別の記事で詳しくご紹介していますので、興味があればぜひご覧ください。)

様々な認知バイアスのイメージ

自らの「思考の地図」を意識し、問いを立てるために

私たちは無意識のうちに、こうした思考の枠組みを常に利用しています。そして、これらの枠組みは、生まれてから今日に至るまでの経験によって、人それぞれ異なる「思考のクセ」として構築されてきました。

自分の思考のクセを知り、客観的に自分の思考を振り返る(メタ認知)こと。そして、自分の価値判断基準そのものの妥当性を問い直し、論理構成の無駄や間違いを見直すことが、これからの時代を生き抜く上で非常に重要です。

こうした思考の枠組みと、それを「ノイズ」として歪ませる認知バイアスの影響が複雑に絡み合って、私たちの考えは構築されていることを知っておきましょう。

尚、人の思考におけるシステム1、システム2という二重過程理論については、別記事の中で説明させていただいています。興味があればご一読ください。

まとめ

私たちの思考システムは、驚くほど精巧で高速ですが、同時に、時にとんでもなく簡単に間違いを起こします。

AIにはない、人間の思考の仕組み、特に「思考の地図」ともいえるフレーム、スキーマ、メタファー、アナロジーといった概念を理解すること。そして、自分自身の思考の偏りやクセ、さらには認知バイアスの影響を知ることは、極めて重要です。

「答えは情報の中にはない」ことを肝に銘じ、溢れるメディアやSNSの情報に対して、私たちは賢明な向き合い方を求められています。自分の頭で考え、情報を取捨選択し、正しいと思える判断を自らの力でできる人間になること。それが、このAI時代を強く生き抜くための「知的体幹」を鍛える道です。

自分の思考を客観的に見つめ、より良い判断をするために、ぜひこれらの概念を意識し、活用してみませんか。

この記事が、あなたの「考える力」を磨くヒントになれば幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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