京都府南部の和束町の茶畑や集落は鷲峰山の山麓に広がっており、町域の大部分が山間部を占めています。茶畑の景観が美しく、「日本で最も美しい村連合」に加盟しており、「茶源郷」とも呼ばれ観光地としても注目されています。
和束町の茶葉は、昼夜の寒暖差や霧の発生など、茶栽培に理想的な自然条件に恵まれており、「霧香(きりか)」と呼ばれる独特の香りを持つ高品質な茶葉が育つとされています。
今回私たちは、新緑がまぶしい季節、和束町の急峻な茶畑を登り、役行者が拓いた山岳修行の霊地の鷲峰山を目指し、そこから宇治田原町に下る道を巡ってきました。
奈良時代、聖武天皇が平城京の鬼門封じとして堂を建立し、勅願寺となったのが、鷲峰山の金胎寺です。山内には奇岩怪石が連なる行場(ぎょうば)があり、修験者たちが心身を鍛えた痕跡が今も残ります。
宇治茶の本場「茶源郷」に向かうバスでは、抹茶文化がブームのフランスからの多くの若者の観光客にも出会いました。
和束町の茶畑から鷲峰山に向かう修験の道を歩いて、信仰と自然が織りなす霊地の魅力を味わってみませんか。
ハイキングルート:茶畑を抜けて鷲峰山へ
今回のコースは、宇治茶の本場の和束町の茶畑の中の急登の道を抜けて鷲峰山に登り、宇治田原の原茶宗明神社へと向かう山越えのルートです。
和束町は、抹茶の生産量が多いことで知られる日本の茶産地の一つです。美しい自然の中で育まれた高品質な抹茶は、世界中の茶愛好家から高い評価を得ています。

フランス人観光客との出会い:和束町へのバス旅
今回の登山口までは、加茂駅からバスで「和束町原山」バス停を目指すのですが、加茂駅では男女のフランス人観光客が6、7人乗込んできました。全員若く30代前後の感じです。
同行のIさんの話では、実は近年、フランスでは抹茶が大人気なのだだそうです。
そして、宇治を訪れる外国人も増えているのだそうです。
バスは少子高齢化が進む過疎路線で、乗客は私たちを含めてわずか数人。車内には、廃線防止を訴える啓蒙放送が流れていました。
宇治の茶畑を目指すフランス人観光客が、この過疎地のバスの存続の僅かな希望の光になればいいのですが。
我々とバスに同乗したフランスの若者たちは、「和束山の家前」バス停で下車していきました。
そこには「安積親王墓」や「正法寺」などがあり、本場の茶畑が広がっています。
和束町の美しい風景、そして世界的な抹茶ブームにより、フランス人にとっても魅力的な観光地のようです。
彼らは、乗り合わせた地元のおばあさんにも気持ちよく挨拶しながらバスを降りていきました。

絶景の茶畑から修験の霊地へ:鷲峰山トレッキング
茶畑を抜けた道の先に広がる感動の絶景!
バスの終点の和束町から山頂の鷲峰山に向かっては上り坂が続き、やがて更に急坂の茶畑を抜けていきます。

ルート地図のイメージでは、もう少し緩やかで変化に富んだ山行と思っていたのですが、意外と急な登りが続きます。

しばらく民家を抜けて茶畑に向かう道中もひたすら単調な登りで、更に茶畑を抜けるコースでは一層傾斜が急になります。

茶畑の最後の急登を抜けて振り返ると一面の絶景が広がります。見渡せば、向かいの山の高い所までも茶畑が切り開かれています。
そして、茶摘みの風景は感動的ですらあります。

和束町のお茶 の始まりは、鎌倉時代までさかのぼり、 海住山寺の高僧慈心上人が、茶業興隆の祖とされる栂尾の明恵上人より、茶の種子の分与を受け、鷲峰山の山麓で栽培したのが始まりと言われているそうです。
鷲峰山は、古くからの山岳信仰の霊場
茶畑を抜けると山道に入りますが、意外とここからの方が登り易い道が続きます。
鷲峰山の山頂付近は、役行者(えんのぎょうじゃ)が開いたといわれる山岳信仰の霊場として、金胎寺等の史跡や行場が残っており、奈良時代以降、山岳信仰の場として、奈良の「大峰山(吉野)」に対し「北大峰」と呼ばれるほど栄えたそうです。
立派な木造の重要文化財の「多宝塔」が、新緑と澄んだ空気に映えて重厚な存在感を示していました。こうした古い木造の建造物は、いつ見てもその建築技術に感動を覚えます。


以前に訪れた際には、金胎寺から行場めぐりを行いましたが、今回は行場は素通りして鷲峰山の山頂を目指し昼休憩となりました。

ここから、宇治田原への下りは、杉の落ち葉などでふかふかの土ながら、気を抜くと滑って転ぶ道で歩きにくい道が続きます。
下山後のサプライズ:永谷宗円ゆかりの地と、ハプニングも旅の思い出に
登山道を下ると急に開けて、「茶宗明神社(ちゃそうみょうじんしゃ)」が目の前に現れます。
ここは、永谷宗円を「茶宗明神」として昭和29年、大神宮社に合祀したもので、茶祖の功績をたたえる全国の茶業者の崇敬を集めているそうです。かの有名な「永谷園」の創始者です。


少し下ると、すぐ右手にはトイレがあり、その先では地元のボランティアの昔のお姉さんたちが、無料でお茶を振舞ってくださいました。
ここではサービスだけで、お茶の販売などはしていないそうで、お土産のお茶はどこで買えるかを尋ねると、「少し下ったところに、『やんたん』が有るので、是非立ち寄ってみて」とのことでした。
『やんたん』は日本緑茶発祥の地・宇治田原町の観光交流拠点として2018年6月にオープンしたそうです。
ここで、煎茶の新茶などをお土産ゲットしました。

帰宅後に改めてネットで煎茶の入れ方をしらべて、お茶の量や湯温や入れる時間などをしっかり守ったところ、煎茶がこんなに美味しかったのかと感動を覚えました。
消えたバス停、迷走するバス停探し
無事にお土産をゲットして、後は宇治駅までのバスに乗るだけです。予定のバスの時間迄余裕があるので、更に他の土産物屋を散策します。
そこへリーダーからバス停が見当たらないと緊急連絡が入り、慌てて探すことに。何とか次のバスに乗るも、乗り継ぎに1時間待ちの大ショック!結局、少し余分な時間はかかりましたが、無事駅に到着できました。このルートを検討される方は、事前の場所と時刻表の確認をおすすめします。

抹茶はなぜ海外で人気?フランス人観光客の背景
抹茶は、その独特の風味と健康効果から、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど世界中で愛され続けています。
フランスは、日本茶の中でも抹茶に対する関心が高まっているヨーロッパ諸国のひとつで、そこにはこんな理由があるようです。
- パティスリー文化との融合:抹茶の深い緑色と、ほろ苦さと甘みの絶妙なバランスが、フランス伝統のパティスリーに新たな魅力をもたらしています
・ピエール・エルメ・パリの抹茶マカロンや、ラデュレの抹茶フィナンシェなどが有名です - 日本食ブーム:日本食ブームの中、抹茶を使ったスイーツや抹茶ラテが定着しているそうです
- 健康志向:抹茶に含まれるカテキンなどの抗酸化作用で、健康や美容効果に注目が集まっています
- 日本文化への関心:日本文化に関心から日本文化を象徴する抹茶も人気を集めています
- 茶道体験:茶道教室が開かれ、フランス人が茶道の文化に触れる機会が増えています
- 若年層への普及:近年は、SNSなどを通じて若年層に抹茶の魅力を発信する活動が活発化しています
まとめ
宇治茶の生産を支える「茶源郷」和束町。今回のハイキングでは、高品質な茶葉を生み出す恵まれた自然と、その山々に息づく修験の歴史を肌で感じることができました。
鷲峰山へと続く急峻な茶畑を登り、霧が育む茶の香りを感じ、金胎寺が伝える信仰の重みに触れる。単なるハイキングではなく、この土地の自然と文化が織りなす奥深い物語を体験できた旅でした。
新緑まぶしい「茶源郷」を訪れ、信仰と自然が織りなす唯一無二の霊地を歩いてみませんか。忘れられない特別な出会いが待っているかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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